■終わりこそが始まりである
──フィールド監督の長編は名作ばかりです。監督とのお仕事の感想は?
「彼の映画制作で素敵なところは、撮影プロセスに、明確な情報が提供されている点にある。そのスタイルは、ドキュメンタリー映画的な要素が濃い。だから観客のほうがター自身よりも、彼女の心理を見通すことができる。それはある意味で現実社会と同様であると思う。人はなにか夢中になってしまうと、自分がどんなふうに振る舞っているのか、どんな口調で話しているのか、人の目に自分がどう映るのか全く意識しない。ただただその瞬間、コミュニケートするということだけに焦点を絞る。だから人が自分の行動についてどう思ったのかあとで知って、正直驚くわけ」
──凋落していくターを演じる上で心掛けたことは?
「ターが転落する女性に変化していく状況だけでなく、音楽を通して脚本のリズムも表現しようと心掛けた。俳優である私にとって、音楽は役を解放させ、作品の世界に導いてくれて、物語とのつながりを見つけるカギになった。その点で役に入りやすかった」
──監督の作品の多くは予期せぬ結末が見事です。この映画が悲劇か希望の物語かは、観客の解釈次第でしょうか。
「初めてあのシーンを読んだとき、なんて悲しいシーンなのかと思った。ところが撮影するときには、学生オーケストラと一緒にやってみて、生命観を共にする高揚感ある体験となった。想像していたのとは全く異なる心身が洗われる出来事だった。終わりこそ始まりであると感じた」
(高野裕子[在ロンドン])
※週刊朝日 2023年5月26日号