ケイト・ブランシェットの新作は、世界最高峰のオーケストラで女性初の首席指揮者に任命されたリディア・ターを演じた「TAR/ター」。トッド・フィールド監督最新の今作で鬼気迫る演技を見せたブランシェットに見どころを聞いた。
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本作の主人公は、世界最高峰のオーケストラの一つ、ドイツのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター。「リトル・チルドレン」(2006年)以来、16年ぶりとなるトッド・フィールド監督の最新作は、クラシック界を舞台に欲望と狂気を描いた異色のサイコスリラーだ。
主人公のターは才能に恵まれ努力をも惜しまず、指揮者・作曲家として華々しい実績を積んだ女性。この孤高の芸術家の目を通し、人間が翻弄される権力の本質をあぶり出していく。
9カ月をかけてドレスデン・フィルの元で指揮を学んだブランシェットの演技は、実在すると思い込ませるに十分だが、ターは架空の主人公だ。本作でブランシェットはゴールデングローブ賞主演女優賞をはじめ各国映画賞の主演女優賞を席巻した。
──あなたが演じた主人公のリディア・ターは、現実には存在しない女性の首席指揮者という設定です。
「私がこの世界に入ったころ、女性が演じる人物像の幅はとても狭かった。『優雅で清く正しく、人に好かれる美しい女性』が圧倒的で、演技を音に例えるなら、鳴らせる音は二つか三つくらい。それに対して、今回のターという役は、将来描かれる女性像のお手本になるような例だと思う。これから先、女性像のさまざまな可能性を導くものであると感じた。女性にも人間味があり、さまざまな面を持っていて間違いも犯す。本作はそこにドラマがあり非常におもしろい役だと思った」
──権力というテーマを扱う作品である点では、ターが男性でも成立したと思いますか?
「男性が権力にしがみつき、それが彼らにどんな影響を及ぼすのか、どんな振る舞いをするかという例を、私たちは毎日のニュースをはじめ数知れず見てきたし、決まりきった反応をしがちだと思う。けれども権力を持つ側を女性に置き換えることで、異なる視点で見せることができたと思う。主人公が女性であることで、さまざまなニュアンスも作り出せると思う」