「ユース・パーラメント」の様子。前方に座るのは現役大臣たち、2階席にはレポーターを務める生徒たちも(写真提供/フィンランド議会)
「ユース・パーラメント」の様子。前方に座るのは現役大臣たち、2階席にはレポーターを務める生徒たちも(写真提供/フィンランド議会)

 模擬選挙に参加したある学校の9年生の公民の授業を見せてもらった。この日は、各党の安全保障政策について調べてプレゼンの準備をしている、と二人の男子生徒が説明してくれた。模擬選挙について聞くと、

「国民連合党に投票しました。友達のお父さんが応援しているから」

「僕も国民連合党に投票しました。家でもウクライナのことやNATOのことを話したりします。3年後(18歳になったら)もちろん投票に行くつもり」

 政治に興味を持つのは、ごく当たり前のこと。そうでなければ世の中で何が起きているのかわからないのと同じこと、と二人が口をそろえる。

 模擬選挙で得票率トップのフィン人党は、動画投稿SNS「TikTok」で若年層の支持を広げたと言われている。別の女子生徒は言う。

「TikTokはよく見るけど、政治に関するTikTokk上の情報は信じていません。あれは単なる広告だから。私にとって重要なトピックは、人権やレイシズムに関すること」

 氾濫する情報に惑わされず、真偽を見極めるメディアリテラシー教育も行き届いているようだ。

 模擬選挙だけでなく、国会や市議会にも「ユース版」が存在し、これらも民主主義教育の一環を担っている。例えば「ユース・パーラメント」は2年に一度、150校から14~15歳の199人の“議員”が参加する。隔年で国会議事堂での本会議が行われ、質問には現役の大臣が回答する。

 一方「ヘルシンキ・ユース・カウンシル」はヘルシンキ市議会のユース版だ。13~17歳の議員30人が隔年で選出される。市の運営に関する計画や様々な意思決定において、若者の声が確実に反映されるようにすることが彼らの任務だ。年間1万ユーロ(約145万円)の予算を市から受けている。21年は74人の候補者が立候補した。市内を走るバスの中に充電用コンセントが設置されたのは、ユース・カウンシルの働きかけで実現した施策の一例だという。

 政党の青年部に当たるユース党の存在感も大きい。ユース党での活動後、議員のキャリアを選ぶ人も少なくない。サンナ・マリン氏も20代の頃に社会民主党のユース党に参加し、2010年からの2年間は副代表を務めていたと言われる。

■「声が届く」と感じる

「興味あるトピックを見つけてもらえるようにするのが青年部の役割」(左派連合青年部のヒッラ・コスケラさん)というように、若者と政治の接点を作り出す役割も果たす。

 特にSNSでの発信に力を入れているフィン人党青年部のアミ・キマネンさんは、

「ややこしいと思われている政治のこともTikTokならシンプルに伝えられます。(若者は)希望が見えなければ(政治に)参加しない。希望を取り戻すことが大事だと考えています」

 こうして用意された様々な「場」は、政治的なキャリアを選択する人にとって、経験を積む場となるだけではない。一人ひとりが自分たちの「声が届いている」と感じる体験になるからこそ、シチズンシップが育まれていく。(ライター・高橋有紀)

AERA 2023年5月15日号より抜粋

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