集団にぶら下がり、楽して、もらうものだけはちゃっかり手にする人々。周囲を見渡せば、こうした「フリーライダー」は組織に必ず存在するものの、多くの人は彼らに嫌悪感を抱く。時には排除し、協力的な集団を築こうとする。
 不思議である。利益の最大化の視点では、なるべくただ乗りして利己主義を貫くことが合理的だ。個体保存の本能でもある。ただ、現代はともかく、人類史を俯瞰すれば、食料が安定的に供給されなかった時代があまりにも長い。ただ乗りする者だけでは種の存続は厳しくなるため、フリーライダーは徹底的に阻害された。すでに旧石器時代に肉を集団で分け合った時には道徳感情が遺伝子に埋め込まれていた可能性が高いという。
 著者の慧眼は、人類の良心が長い期間を経て、緩やかに変化しており、いまだに途上であるとの仮説を掲げているところだ。若干冗長な記述もあるものの、膨大なフィールドワークの先行研究などを参照に打ち出す主張は新鮮だ。終章の利己性と利他性で揺れる国際社会の行方も興味深い。

週刊朝日 2015年2月20日号

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