ウミは話す。近年の中国では他にも、国際的な「#MeToo」運動(性犯罪被害の告発をおこなうネット上のムーブメント)が、当局の厳格なネット統制にもかかわらず広く拡散した。
日本に関係した話題では、近年、中国の若い女性の間で上野千鶴子の書籍が大ブームになっている。この背景にもフェミニズムの高まりがある。クラゲは話す。
「経済が発展して、これまでは認識されてこなかった自分の権利を考える女性が増えた。フェミニストの自覚を持たない人でも、若い女性の間では似た考えが広まっています。バブルが終わった数十年前の日本と、すこし似ているのかも」
そして、白紙運動の要因でもある習近平政権のゼロコロナ政策は、特に女性に大きな負担を強いるものだった。
たとえば、ステイホームが呼びかけられたことで、女性の家事負担は増大した。中国は共働きの家庭が多いが、伝統的な家族観も強固なので、女性が在宅する限りは性別による役割分担が増す。
加えて、経済の混乱や社会不安が膨らむなかでDVの被害も増えた。これはコロナ禍で世界的に起きた傾向でもあるが、22年の中国ではなおさら深刻だった。
なぜなら、当時の中国では感染力が高いものの重症化リスクは低いオミクロン株に対しても従来株と同様の徹底的な封じ込め政策が踏襲されたからだ。感染者があちこちで発生したことで、同年3月からの上海ロックダウンをはじめ、非合理的な隔離や封鎖政策が乱発された。ゆえに人々のストレスはいっそう溜まりやすく、その捌(は)け口(ぐち)が身近な家族に向きやすい構図が生じた。加えてウミは話す。
「中国社会にもともと存在する父権的な文化と、中国共産党の専制体制(ヘゲモニー政党制)は、非常に親和性が高いと思うんです」
確かに、習近平政権のトップダウン型の統治のもとで、中国共産党政権が持つ家父長制国家的な性質がいっそう強化されたことは事実だろう。人事において習の側近ばかりが優遇されるネポティズム(縁故主義)が横行し、官僚たちはそんな習の意向を忖度して忠誠合戦を繰り広げた。硬直的なゼロコロナ政策も、そのなかから生じた。