もっとも、当局がゼロコロナ政策を慌てて撤回したこともあり、中国国内の白紙運動は数日で収束、海外の動きもすぐに沈静化した。中国人の若者が政府批判の声を上げたことは極めて異例とはいえ、現時点で総括すれば、白紙運動はごく短期間で終わった「過去の事件」にすぎないものだった。
しかし、私は現場を見るなかで、別の文脈も感じていた。それは、白紙運動が中国のインテリZ世代たちの「思想の見本市」のような側面を持っていたことだ。
「金融寡頭支配反対」
「すべての不平等と差別に反対」
「独裁反対! イランと連帯せよ! ウクライナと連帯せよ!」
日本の集会の場では、留学生たちが作ったこんなビラが盛んに配られていた。どうやら、近年は中国人留学生の学生街と化しつつある高田馬場あたりが発信源らしい。
これらのなかでも目立っていたのが、「父権の打倒」を訴えるフェミニストたちの存在だった。
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「白紙運動の現場では女性の参加者が目立ったでしょう? 今回、最初の四通橋事件を除いて、男性たちの動きはあまり表立ちませんでした。女性のほうがずっとヤル気で、頑張っていたんですよね」
ウミは取材にそう話す。ちなみに「四通橋事件」とは、2022年10月13日に北京市内で男性が反習近平の横断幕を掲げ、白紙運動の呼び水となった事件だ。いっぽうでウミの言う通り、中国か海外かを問わず、白紙運動の場で女性の姿が目立ったことは確かだった。
「フェミニズムは、人類の半分を占めている女性の人権を保障することですから。必然的に(人権に対する侵害が多い)中国の体制に対して反抗的な気質を持つことになります」
ウミと同席したもうひとりの中国人フェミニスト、クラゲ(仮名、27歳)は言う。ノーメイクにシンプルなヘアスタイルだが、柄物のジャケットを中華服と合わせて伊達に着こなす個性的なファッションがよく似合っていた。
クラゲは白紙運動のとき、中国国内の参加者が安全に活動するための情報提供係を担当した。今年3月8日の国際女性デーでは、仲間と一緒に、中国で白紙運動に参加して拘束された女性たちの釈放を訴える街頭活動もおこなった。彼女が中国の社会改革を望む理由は、自身の生い立ちも関係している。