写真=伊ケ崎忍
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 開高健の「ずばり東京」は1964年の東京五輪を前に変わりゆく東京を活写したルポルタージュで、週刊朝日に63年から64年まで連載されました。「ずばり東京2023」は、2度目の五輪を終えた東京を舞台に気鋭のライターが現在の東京を描くリレー連載です。今回は安田峰俊さんによる「新宿編」です。

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「新宿西口地下で開かれた白紙運動の集会には、私の他に何人も中国人のフェミニストが来ていました。中国の若い人のなかで、最も強い問題意識と反抗の意思を持っているのが私たちなんです」

 新橋の居酒屋で、ジンジャエールを片手にそう話したのは、中国北部出身で24歳の留学生のウミ(仮名)だった。言葉の内容とは裏腹に、気負った気配はまったく感じられない。ファッションも、日本の女子学生とあまり変わらなかった。

 彼女は現在、東京の某国立大学の大学院で学びつつ、在日中国人の数人の仲間たちとフェミニストサークルを結成している。今年4月23日、東京レインボープライド2023(LGBTQのイベント)で、「父権不死極権不止」(家父長制を壊滅せねば独裁権力は止まらない)などの中国語のスローガンを掲げ、それをネットで発信するなど、自国の政府批判も辞さない活動をおこなっている。

 昨年11月末、中国では非合理的なゼロコロナ政策に反発した人々の不満が爆発。生活問題の改善を訴える庶民層と、習近平や中国共産党の退陣を叫ぶ一部の若者層がともに声を上げた異例の抗議行動「白紙運動」を起こした。

 反習近平を主張していたのは、中国版のZ世代(10代後半~20代後半)に相当する。東京を含む海外の各都市でも、本国と呼応した留学生らが活発に活動した。ウミがはじめて街頭での抗議に参加したのも、白紙運動への参加がきっかけだった。

 日本で最初の白紙運動は、11月27日に新宿駅西口地下でゲリラ的に開かれた集会である。このとき、筆者は日本人の記者では唯一その現場に立ち会い、中国人留学生たちが大声で習近平の退陣を叫ぶ光景を目の当たりにした。その後も11月30日に新宿駅南口で1千人規模、12月3日に大阪で100人規模の集会が開かれたので、それらも追い続けた。

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