加えて、中国共産党の幹部人事には、性別を理由とした明らかな「ガラスの天井」が存在する。なかでも、白紙運動の直前の第20回共産党大会で発表された、第3期習近平政権の高官の顔ぶれは、党政治局員24人の全員が1960年代以前に生まれた漢族の中高年男性のみで占められるという、極めて多様性に欠けたものだった。

 中国の若者の間で高まっているフェミニズムが、体制批判的な性格をはらむのは必然でもあった。白紙運動に参加したエリート層の若者の一部については、これらの問題意識から政府に声を上げていたのである。

 いっぽう、東京における白紙運動の参加者には、別のイデオロギーの持ち主もいた。たとえば11月30日に新宿駅南口で開かれた集会では、こんなアジ演説が飛び出している。

「われわれの要求は中国共産党と習近平の退陣のみにとどまらない。われわれは国家と警察制度に向けた攻撃を開始する。われわれは一貫してこれらの死滅を求める!」

 壇上に上がったのは、中国人留学生のアナーキスト・グループだ。メンバーの一人で24歳のバック(仮名)は、事情をこう話す。

「アナーキストとして今回の『祭り』に参加し、それを継続させたかった。これが演説の理由です。白紙運動の勃発前、11月20日に東京大学の駒場祭(学園祭)に潜入し、反習近平のビラを大規模にバラ撒(ま)いたのも僕たちなんです」

 バックは来日6年目の大学院生だ。アナーキストになった直接の契機は、キャンパス内で日本人の学生グループから刺激を受けたため。ただ、中国にいたときから、魯迅や巴金、ドストエフスキーに熱中し、中国共産党とは異なる左翼思想に関心を持っていたという。

「マルクスも昔は好きでしたね。『国家の死滅』の考えは実にすばらしい。でも、それゆえにボルシェビズムやスターリニズムには違和感を覚えてきました。これらを継承した中国共産党も当然、ダメですよ」

 かつて、エンゲルスはマルクスの唯物史観を発展させるなかで、共産主義社会の実現後は国家が「死滅」すると説いた。だが、現実のソ連や中国は、むしろ自国の国家権力の強化に動いた。とりわけ中国共産党は、強烈な中華民族ナショナリズムを提唱し、市場経済と格差を容認するという、マルクス主義の理想からはかけ離れた政策の数々を「中国の特色ある社会主義」という言葉で正当化している──。

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