「本当は姉が一人いました。しかし『男の子ではなかった』という理由で中絶させられています。いっぽう、母が私を妊娠したときは体調が悪く、中絶できなかった。なので、私は生まれました」

 中国ではかつて厳しい産児制限政策(一人っ子政策)が敷かれていた。いっぽう、社会には儒教の通念が残っており、「家を継ぐ」男の子を望む風潮が強い。結果、クラゲの姉のように中絶される女児が多数存在した。

 加えて、クラゲの故郷は中国南部の福建省の農村地域だった。この地方は「宗族」という父系の血縁集団の結びつきが強く、一村の住民がすべて同じ宗族であることも珍しくない。わずか10年ほど前までは、他の宗族との武力抗争「械闘」の風習も存在した。

「男性は戦力でもあり、とにかく男尊女卑の気風が強い土地です。一人っ子政策が施行される以前から、生まれた女児を水に浸けて間引く『溺女』という風習が存在しました」

 女性の人権は制限され、結婚も親が決める。見ず知らずの男性に嫁ぐことが決まると、入籍前に男性側の一族から、子作りと男児の妊娠が求められる。だが、たとえ妊娠しても女児であれば中絶する。自分の母を苦しめた風習は、クラゲの世代になっても変わりなかった。

「大学2年生のとき、親に無理矢理に故郷の男性と結婚させられそうになった。しかも、見合いの席に男性は来ず、相手の両親から先に品定めされるというひどいもの。それから逃れて日本に来たんです」

 中国では社会主義体制の成立後、女性を「半辺天」(天の半分を支える人)であると位置付ける男女平等理念が唱えられたが、現実は変わらない部分も多い。数千年の伝統は、容易には消えないのだ。

「中国のフェミニズムに関して、最近注目を集めた話題は、22年1月に江蘇省徐州市豊県の農村で、女性が鎖に繋がれて監禁され8人の子どもを産まされていたことが判明した『鉄鎖女』事件、同年6月、河北省唐山市の飲食店でセクハラを拒否した女性客4人に、黒社会(反社会集団)関係者の男性ら数人が殴る蹴るの暴行を加えた事件……」

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