作家・室井佑月さんは、自身のコラム「カルトフェミ」(2023年4月28日号)に寄せられたコメントに反論する。
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前々回で書いた『カルトフェミ』という私のコラムに、ライターの小川たまかさんが即座に反応、コメントしていたので、それに反論したい。
私は記事の中で、不同意性交罪が成立すると、その時は同意していたのに、あとから「アルコールなどの影響で」「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」であったといわれかねないという危惧(きぐ)を書いた。
すると小川さんは「『スピード規制なんてあったら運転できない』と言うようなものです」と反論を述べていた。が、全然違う。というか、問題点がまるでわかっていない。そもそも同意があれば、アルコールを飲んでSEXしても何の問題もない。ところがアルコールの影響で「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」だったかどうかは、心の中のことで、外からは見えないから問題なのだ。
たとえるなら、違反しているかどうかメーターを見ればすぐわかるスピード違反じゃなく、「車内で音楽をかけ運転してもいいけど、それで気が散ったら違反」というような話になるのじゃないか。
「気が散っているかどうか」なんて外からはわからないから、そんな法律ができたら、怖くて音楽をかけて運転なんてできなくなる。もしかしたら会話だって、気が散るからダメかもしれない。恋人同士のドライブ・デートは、二人で押し黙ってエンジン音を聞く、乾いた時間になりかねない。
この法案は、法制審議会で「改正に慎重な法曹や刑法学者も出席して検討された末のものです」というが、同様の懸念は法制審議会でも提起されている。
それに強い反対を示したのは、被害者団体や被害者支援の委員だし、女性団体ともども与野党へのロビー活動がなされていた。とくに少しでも支持を集めたい野党は、喜んでロビー活動に応じた。その結果、一部のフェミニストを自称する人々が政治に深く入り込んだ。そしてキャンセル・カルチャーを連発する彼女たちに、いいたいことがあってもいえないという声を、私もちらほら耳にする。
私はこんな曖昧(あいまい)な法律で、自由が奪われるのは嫌だ。愛の反対は無関心。恋愛は一人でできない。片方が心変わりをし、片方が未練を残すこともあるだろう。そして、それが復讐(ふくしゅう)心に変わることも。かつてはものすごく愛した人であっても、いいや、ものすごく愛した人であったから、しばらく経っても未練は消えず、離れていったその人に嫌がらせをしたい、という人もいる。金のためにやむをえずかつての恋人を裏切る人もいる。そんな、誰にとっても悲しい結末に、この法律は使われるかもしれないのだ。
室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中
※週刊朝日 2023年5月19日号