■言われたとおりにやってはみるが、言いなりにはならない

 小泉今日子がすぐれたブレーンを得ることができたのは、運のよさだけが原因ではありません。自分に向けられた提言や要求に、真摯に応えようとしたからです。

「活人」のグラビア撮影を回想して、秋山道男は言っています。

<撮影は朝八時から翌朝八時まで裸のまま続き、皮膚に絵の具がこびりついて大変でしたが、彼女は文句も言わずにニコニコやり通しましたね>

<小泉さんの凄みとは、過激な企てを平和にやりのけてしまうところです。しかも、本人が一番面白がっている>(注3)

 川勝正幸は、小泉今日子に「パンパース小泉」というあだ名をつけました。ネーミングの由来は、今までにない吸収力のおむつのように、小泉今日子は何でも吸収するからだそうです(注4)。

「された当人」に応える姿勢があるから提案がプラスに働く。応えてもらえるから周りもさらに提案したくなる――若き小泉今日子と身近な「知恵者」たちのあいだには、そうしたよいサイクルができていたようです。

 かといって小泉今日子は、「えらい人」の言うことには何でも従うタイプではありません。デビュー1年後に、みずからすすんでイメチェンを図ったことからもそれはわかります。

 芸能界入りしてからイメチェンまでの1年間について、小泉今日子は次のように語っています。

<最初の一年は何やってるか分からなかったですねぇ。分からないことには意見も言えないから様子を見てみようという感じだったんです。(中略)服とかも「可愛いいのを着るべきなんだろうな」とか、「ここはひとつ笑っておくべきなんだろうな」とかいうのを一年やってね、ハッと気がついたら、自分が「これ、一体誰なの?」みたいなことになっちゃってた>(注5)

 これまで体験したことがないことや、まったく想像もできないこと――そうした「わからないこと」が関わってくる要求や教えを無視していては、いつまでも成長できません。とはいえ、すべてのアドヴァイスを受けいれていたら、混乱に陥るのは必至です。矛盾する提案を一度にされたり、自分に不向きなことを勧められたりすることもあるからです。

 デビュー直後の小泉今日子は、「分からないことには意見も言えないから」、1年間「様子を見て」いたと言っています。そして、現在の路線にはなじめないと見きわめがついたところで、イメチェンを申し出たわけです。

「『わからないこと』を持ちかけられたときには、とりあえず言われたとおりにする。その結果、自分に向かないと見きわめがついたらキッパリ拒絶する」

これが、「わからないこと」をするように求められた場合の小泉今日子の方針です。芸能界入りした段階で、このやり方は確立されていました。

プロ野球巨人軍で長年コーチやスカウトをつとめた上田武司は言っています。

<プロ野球選手に必要な素直さは、聴く耳を持っていることに置き換えられます。まわりのコーチや先輩選手が話す精神論から技術論まで、耳を傾けられる柔軟さがあり、そのなかから自分に当てはまるものを取捨選択できる判断力があるかどうかでしょう>(注6)

 他者からの提言を受けいれられる素直さと、勧められたことにどこまで従うかの判断力をあわせ持つこと。分野にかかわらず、成功への秘訣はそこにあります。小泉今日子は、この点において際立っていました。
 

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