しかし、禰豆子はすでに鬼殺隊の一員なのだ。ならば炭治郎は禰豆子が戦うことに対して、以前よりも明確に覚悟を決めなくてはならない。あの無限列車の戦いで、炎柱・煉獄杏寿郎は禰豆子のことを隊員として認め、竈門兄妹のことを信じてくれると言ったのだから。

「命をかけて鬼と戦い 人を守る者は 誰が何と言おうと 鬼殺隊の一員だ」(煉獄杏寿郎/8巻・第66話「黎明に散る」)

 それにもかかわらず、半天狗との戦いの最終局面で、鬼に喰われかけている刀鍛冶の人間と、朝日に焼かれる禰豆子のどちらを救うのかを、炭治郎は決断することができなかった。その炭治郎の「優しさと弱さ」を笑顔で押しとどめ、兄に覚悟を促したのは、他でもない禰豆子だった。炭治郎は、刀鍛冶の里で「か弱き人々」を守るために必要な覚悟をやっと手にした。

 しかし、刀鍛冶の里で竈門兄妹が選んだその道は、あまりにも過酷な戦いの道である。「炭治郎の成長」が象徴するのは、これから失われるあまたの大切な人たちの命の喪失だ。今後彼らは物語の終幕に向けて、よりむごい覚悟を強いられることになるだろう。炭治郎たちの戦いぶりと、彼らが守ろうとした大切な“夜明け”を最後まで見届けるためにも、新シリーズの放送を待ちたい。

 ◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が好評発売中。

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