ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載が、「今週のお務め」とリニューアルして始まりました。初回のテーマは「オカマとしての私の『務め』」について。
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7年間お世話になった週刊朝日が休刊となり、今週からはAERA dot.にて新装開店です。どうぞよろしく。
遡ること13年前。「オネエブーム」なる現象に乗っかって、私は突然メジャーな存在になりました。いわゆるアンダーグラウンドとかサブカルチャーといった世界に生息する「キワモノ」としてテレビやラジオに出るというのが、私の最たる役目です。今もそこには誇りを持っているつもりですが、当時のようにそれをまっとうしようとすると周囲は困惑する。そんな世の中に少々やりづらさも感じる今日この頃です。
「自分らしく」「ありのままに」が氾濫すればするほど、オカマは胸を張って自らを「オカマ」と呼べなくなりつつあります。まさに本末転倒です。しかも、あたかもそれがこちらの望みだと大きな誤解をされた上に、そのイデオロギーの先頭に立たされるストレスたるや。
世の中は不平等だから面白い。権力・能力・財力・環境・身体の差によって生じる「不平等感」こそが、資本主義の原動力なのだと信じて50年近く生きてきました。私にとって個性なんてものは、裏を返せば欠落や弱点でしかなく、無理やりどうにかそれを商売道具にしてごまかしているに過ぎません。それを今さら「あなたはあなたのままで良い」などと言われたら、ただでさえ希薄なモチベーションを完全に見失ってしまいそうです。
オネエブーム全盛だった頃、「ミッツ・マングローブは他のオネエタレントと比べて男性スタッフへのボディータッチが少ない。本当は女好きの“偽オネエ”なのでは?」と書かれたことがあります。あらゆる道義がねじれ過ぎているだけでなく、今の時代ではお目にかかれなくなった幻想と偏見と低俗さに、もはや懐かしさすら覚えます。