一つめは、人生を豊かにしてくれる人間関係を一つか二つ思い浮かべ、相手に今まで以上の注意を向けること。「大切な人に注意を向け、感謝を伝えるために、今日できる行動はあるだろうか?」と考えてみてもいい。
二つめは、一日の過ごし方を少し変えること。とくに、大切な人と一緒にいるときには、注意が途切れない時間をつくること。夕食にはスマホを持ち込まない。あるいは決まった相手と毎週または毎月、定期的に会う時間をもつ。日課を少し変更し、決まった時間に大切な人や新しい友人とコーヒーを飲んだり散歩をしたりしてもいい。情報端末のスクリーン越しのやりとりを増やすより、室内の家具を会話が弾む配置に模様替えするほうがいい。
三つめは、誰かと過ごすときには好奇心を忘れないこと。よく知っている相手、一緒にいて当たり前だと思っている相手に対しては、特別に意識してみよう。訓練は必要だが、すぐに上達するはずだ。「今日はどうだった?」「別に」というやりとりで会話を終わらせず、真摯な関心を寄せること。すると、相手もそれに応えようという気になるものだ。少し冗談っぽく「今日一日でいちばん面白かったことは何?」と声をかけてもいいし、「今日、何かびっくりすることはあった?」という訊き方もある。打ち解けた返事が返ってきたら、「もう少し聞かせてくれるかな。面白そうだし、もっと知りたい気がするな」と掘り下げてみよう。相手の立場になり、相手が体験したことを想像してみること。こういう視点をもつだけで、会話は弾み始めるし、好奇心が相手にも伝染する。相手に興味をもつほど、相手も自分に興味をもつものだと気づくだろうし、このプロセスの面白さに驚くはずだ。
人生は、いつだって気づかぬうちに過ぎ去ってしまう。月日の経つのがあまりにも速いと感じているなら、何かに注意を傾けることが改善策になるはずだ。注意を傾けた対象に生命を吹き込み、自動操縦で流される日々を生きてはいないと実感できるからだ。注意を向け、気を配るとは、その瞬間を生きている相手を尊重し、敬意を払うことだ。自分自身に注意を向け、自分の生き方、自分が今いる場所、将来たどりつきたい場所を確認すれば、最も注意を向ける必要があるのは誰なのか、何なのかが見えてくる。注意は最も価値ある資産だ。注意をどう使うのかは、このうえなく重要な決断だ。幸いなことに、その決断は、今この瞬間、そして人生のあらゆる瞬間に下せるものなのだ。
●Robert J. Waldinger(ロバート・ウォルディンガー)
ハーバード大学医学大学院・精神医学教授。マサチューセッツ総合病院を拠点とするハーバード成人発達研究の現責任者であり、ライフスパン研究財団の共同創立者でもある。ハーバード大 学で学士号取得後、ハーバード大学医学大学院で医学博士号を取得。臨床精神科医・精神分析医としても活動しつつ、ハーバード大学精神医学科心理療法プログラムの責任者を務める。禅の師でもあり、米国ニューイングランド地方はじめ世界中で瞑想を教えてもいる。
●Marc Schulz, PhD(マーク・シュルツ)
ハーバード成人発達研究の副責任者であり、ブリンマー大学の心理学教授でもある。同大学の データサイエンスプログラムの責任者であり、 以前は同大学の心理学科の学科長を務め、臨床発達心理学博士課程の責任者でもあった。アマースト大学で学士号取得後、カリフォルニア 大学バークレー校で臨床心理学の博士号を取得。ハーバード大学医学大学院で博士研究員として健康心理学および臨床心理学の研鑽を積んだ後、現在は臨床心理士としても活動している。
●児島修(こじま・おさむ)
英日翻訳者。立命館大学文学部卒。主な訳書に、パーキンス『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』、ハウセル『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』(ダイヤモンド社)などがある