しかし、テレビ番組は多くの人の目に触れるものなので、制作において幅広い層に対するきめ細かい配慮は必要である。特に、今回のケースのように、当事者が不快に思っているというのなら、その意見は最大限に尊重されるべきだ。

 この際だからついでに言っておくと、千鳥の2人の笑いの本質は「同級生の悪ふざけ」である。岡山県出身で高校の同級生だった彼らは、自分たちの間でしか通じない独特の「ノリ」を持っていたに違いない。それは、本来は教室の隅っこのような狭いコミュニティの中でしか通用しないようなものだった。

 しかし、彼らはプロの芸人になってからも、その当時の笑いの感覚を捨てようとはしなかった。むしろ、そこに頑なにこだわることで、オリジナリティのある笑いを生み出してきた。そして、そのターゲットを少しずつ広げていって、現在の地位を築いた。

 彼らがボケたりツッコんだり何かをイジったりするときの目の付け所や切り口やボキャブラリーは、ほかのどの芸人にも似ていなくて、圧倒的に面白い。

 今回の騒動によって、似たような企画は今後やりづらくなるかもしれない。しかし、千鳥が今まで通りの手法で笑いを取ること自体は、決して否定されるようなことではない。これまでに積み上げてきた信頼がある限り、千鳥という芸人のブランド力が損なわれる心配はないだろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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