こうして、バイデン政権は「見せ場」は作ってきた。しかし、その裏ではのっぴきならぬ事情もある。

「自分が大統領なら、そもそもウクライナで戦争は起きなかった」

「バイデンは、ウクライナでの戦争から第3次世界大戦に国民を巻き込もうとしている」

 2024年大統領選に出馬表明をしたドナルド・トランプ前大統領は、ソーシャルメディアなどでこう主張している。

 トランプ氏はことし3月、ニューヨークの検察当局に30件以上もの罪で起訴された。2016年の大統領選挙期間中、元ポルノ女優に口止め料を渡し、その会計処理が不適切だったというのが主な罪状だ。ところが、「被告」となったトランプ氏の支持者は、起訴を疑問視。彼の選挙陣営への寄付金が殺到し、選挙集会も盛り上がっている状況だ。

■巨額支出に否定的

 ワシントンの議会でも、ウクライナは微妙な亀裂を呼んでいる。バイデン政権を揺さぶろうとしている共和党内では、ウクライナ戦争への関与に否定的な「孤立主義派」が存在感を増している。「タカ派」として、ウクライナ支援に積極的な伝統的な共和党中道派と対立し、党を二分しているともいえる。トランプ氏や、彼に対抗する有力大統領候補とされるロン・デサンティス・フロリダ州知事は、孤立主義派。巨額の支出を避け、外交には関心を持たない有権者にアピールしている。

 バイデン政権は、孤立主義派の急速な台頭にも対応せざるを得ない状況だ。つまり、ウクライナ戦争をどう終わらせるかという本筋とは異なる国内事情で困難に直面している。

 バイデン氏は、2024年大統領選に正式に出馬表明をした。「民主主義を守るため」と単純だが悲壮な訴えでもある。対する共和党の最有力候補が、世論調査の支持率ではトップのトランプ前大統領である。民主党としては、すでにニューヨークの検察から起訴されて「被告」となったトランプ氏の再選を阻止しなければならない。その頼みの綱が80歳を超えたバイデン氏となる。

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