AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
群馬県高崎市から茨城県鉾田市まで北関東を横断する国道354号線。「エスニック国道」と呼ばれるこの国道沿いに暮らす外国人労働者の姿を追ったロードムービー・ノンフィクション。人が集まるところに食事あり。著者が遭遇するインドネシア、パキスタン、ブラジル、ベトナム、ペルーにフィリピン……超ディープだけど、絶品の異国メシの描写も読み応えがある『北関東の異界 エスニック国道354号線 絶品メシとリアル日本』。著者の室橋裕和さんに同書にかける思いを聞いた。
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群馬県と茨城県を東西に結ぶ国道354号線。この国道を「エスニック国道」と呼ぶのは、アジア専門のライター兼編集者の室橋裕和さん(49)だ。
「首都圏の外国人コミュニティーをあちこち回っているうちに、北関東の移民社会の話をよく聞くようになったんです。最近、あのあたりで、こんな人たちが増えているよとか、こんな宗教施設ができたよとか。もともと群馬県大泉町はブラジル人が集住していることで有名ですが、多国籍都市となっている伊勢崎市、ロヒンギャ難民のいる館林市、茨城県ではタイ人の多い坂東市や土浦市、常総市に至っては人口の1割が外国人です。気づけば354号線にそって移民ベルト地帯が形成されていたのです」
室橋さんは、このエスニック国道を中心に、それぞれの地域にどんな事情で外国人が集まるようになったのか、どんなコミュニティーが形成され、どんな暮らしをしているのかを丹念に追っていく。その過程で、日本の産業構造と移民の受け入れが常にリンクしていることにも気づいたという。いまなら5年間という期間限定の技能実習制度などもこれにあたるだろう。
たとえば、近年のエスニックブームも追い風となって、スーパーの野菜売り場でも必ず見かけるほどに市民権を得ているパクチー。実はこれ、首都圏で見る限り、茨城産がほとんどなのだ(茨城県の生産量は福岡県、静岡県に続いて全国3位)。