東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 広島サミット(G7)が終わった。大成功だと言えるだろう。声明には被爆者団体から批判が寄せられているが、世界の首脳が揃って被爆地を訪れたこと自体に大きな意味がある。ゼレンスキー・ウクライナ大統領の登場もサプライズだった。モディ印首相との握手はロシアへの強い牽制になったはずだ。スナク英首相のお好み焼き体験のような柔らかい話題もあった。

 その前提で記せば不安もある。政治学者のイアン・ブレマーは5月19日のツイートで、岸田首相がバイデン米大統領やスナクらと並び歩く写真を引用して「バンド再結集だ」と記した。何気なく漏らした一言だろうが、G7をめぐる興奮の本質を意外と抉り出している。

 今回のサミットは、権威主義大国の中露に対抗し、民主主義国家の結束を確認したものとして評価された。その結束を象徴するのが平和記念公園や宮島での美しい集合写真で、人々はこぞってシェアした。そこには「西側先進国のリーダーシップがようやく戻ってきた」との思いが滲む。

 けれどもそれは感傷にすぎない。サミットの歴史は半世紀近い。参加国のGDPは一時世界経済の7割を占めた。いまは5割を切っている。対照的に重みを増しているのが中国やグローバルサウスで、とくに後者は今後急速な人口増加が見込まれている。G7と同日程でアラブ連盟首脳会議も開催され、ゼレンスキーはそちらにも出席している。もはやG7だけが世界を動かす時代ではなく、その現実はサミットの多彩な招待国に表れている。

 加えてG7首脳の多くは、足元に弱みを抱えている。バイデンは債務問題で直前まで参加が危ぶまれた。マクロン仏大統領もスナクも低い支持率に喘いでいる。独与党も直近の首都議会選で負けている。岸田政権もまだ2年目だ。対照的にモディ政権は10年目を迎え、支持率も過半数超えだ。

 伝説のバンドが一夜だけ復活となれば、多少下手でも観客は喝采を送る。本格的な活動再開となればそうはいかない。往年の名バンドが今後どんな新曲を出すつもりなのか、冷静に見極めたい。

◎東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

AERA 2023年6月12日号

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東浩紀

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東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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