作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、ジャニーズ事務所の性被害問題への謝罪について。
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沈黙を貫いてきたジャニーズ事務所の謝罪と見解を、社長が公表した。ひと月で1万6千筆集まったファンからの署名は大きかったはずだ。それでも発表されたものを読む限り、「これで終わり」というわけにはいかないだろうな……と、モヤモヤが深まってしまう。
「(ジャニー喜多川氏が亡くなっているので)『事実』と認める、認めないと一言で言い切ることは容易ではない」だなんて、それを言っちゃおしまいよ感が深まるし(そもそも、ジャニー氏が存命だったら怖くて声をあげられなかったという被害者もいる)、カウンセラーら専門家の力を借りて被害者と向き合っていくとは言うが、加害者側から提供されるカウンセリングを受けたい被害者っているのだろうか。もっとシンプルにすればいいのに。
性被害者が求めるのは、突き詰めれば二つのことだ。それは世界の性被害者たちの告発が物語っている。一つ、加害側が事実を認めること、二つ、謝罪をすること。本当にこの二つだけだ。もちろん事実を認め謝罪をすれば、当然お金の話になっていくのが大人の世界だけれど、それは副次的なことである。
今回の会見、事実を認めていないのに社長が頭を深々と下げるという、ずれた謝罪だったとしか言いようがない。なによりファンが呼びかけた署名にあった「第三者機関を通して事実を明らかにしてほしい」という要望については、第三者にヒアリングされたくない当事者がいる、被害者に負担をかける……という理由で第三者機関を入れた事実の解明については否定した。話したくない人の口を無理やり開かすような事実解明をしなければいいだけの話なのに……とフツーに思います。
とはいえ、この問題が改めて複雑で、そして多くのファンが沈黙し、まだ大きなうねりのような社会問題になっていないのは、「事実が明らかになって傷つくのは被害者だ」という誤った認識と、被害者が文字通り分断されているからだろう。