野手で大きな期待がかかっているものの、戦力になれずにいるのが陽川尚将(阪神西武)だ。二軍では毎年結果を残していながらも、大山悠輔や佐藤輝明の台頭があって一軍定着ができずにいたが、その長打力に対する評価は高い。しかし移籍した西武ではいまだに二軍暮らしが続いており、成績も打率2割台前半と精彩を欠いている状況だ。ただそんな陽川にとって大きな追い風になりそうなのがチーム事情だ。今年もなかなか中軸を固定することができず、さらに主砲・山川穂高の知人女性への性的暴行疑惑が浮上したことで戦線離脱となり、打撃陣はますます苦しい状況となっているのだ。まずは二軍で結果を残す必要があるが、陽川にとっては千載一遇のチャンスであることは間違いない。チームの危機を自らのチャンスに変えるような活躍に期待したいところだ。

 同じ野手で、二軍で結果を残しながらもなかなか一軍昇格のチャンスをつかめないでいるのが正隨優弥(広島→楽天)だ。イースタン・リーグではここまで本塁打こそ1本ながら、3割5分を超える高打率を残しており、出塁率、長打率も5割以上をマークするなど見事な成績を残しているのだ。チームは低迷が続き、一軍の外野を見ても辰己涼介が不振で二軍降格になるなど今が絶好のチャンスのように見える。二軍で毎年ホームランを量産している和田恋、ルーキーの平良竜哉、現在は育成契約だが長打力が持ち味のウレーニャなどとの争いになりそうだが、この調子が維持できるのであれば、ぜひ一度一軍でも試してもらいたい選手である。

 移籍した12人は昨年まではほとんど一軍の戦力となっていないことを考えると、まだ開幕から2カ月も経っていない時点で判断するのはもちろん早計だが、移籍先の球団から最も期待されるのはやはり1年目ではないだろうか。制度の趣旨を考えても、残りのシーズンで一軍定着とまではいかなくても、何とか爪痕を残せる選手が1人でも多く出てくることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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