だが、性別や人種など、差別的な理由で客を「出禁」にした場合は話が別になる。
「『不法行為責任』といいますが、他人の権利や法律上、保護される権利を侵害したとして、店が客に対して賠償責任を負う可能性があります」(村松弁護士)
では、「出禁」の客がまた懲りずに店に入ってきた場合、牧之原市の男のように逮捕されることもあり得るのか。
村松弁護士は、はっきりと出入り禁止を通告されたのに強引に入店した場合は建造物侵入罪。明確に退店を求めているのに出ていかない場合は不退去罪が成立するとしつつ、こう補足する。
「通常の住居と異なり、店は不特定多数の人が出入りしますので、仮に『出禁』通告があったとしても、ただちに建造物侵入罪が成立するとは言い切れません。どのような態様で店に入ったかが、犯罪成立の要件としては重要となります。証拠の問題もあり、現行犯でなければ逮捕されないことが多いのではないかと思います」
仮に、客や店員に暴言などの迷惑行為を繰り返した場合は、威力業務妨害罪に問われるケースも出てくるという。
迷惑行為だけではなく、悪質なクレームやカスハラなどの問題がたびたび問題視されているが、村松弁護士は「お客さまは神様、という意識がそうした横暴を助長している面があるのかもしれません」と指摘する。
たとえ店側に「出禁」にする権利があっても、客の方が強く出たり、開き直って来店したりすることが実際に起きているのだ。
先の居酒屋店主も、「いたちごっこを何とかしたいけど、警察を呼ぶと、店の雰囲気も悪くなっちゃうし難しいよね」と本音をこぼす。
村松弁護士はこう話す。
「従業員が、客に個別に注意をするのは勇気がいることです。ホームページや店内に張り紙をしてルールを明示したり、監視カメラを導入したりすることで、迷惑な客を未然に防止できれば、従業員のストレス軽減につながるかもしれません」
「お客さまは神様」という感覚は、もはや古いのではないか。調子に乗りすぎると痛い目にあいかねないことだけは、覚えておきたい。
(AERA dot.編集部・國府田英之)