現在小学校では、担任が他の科目と同様に英語を担当することが多い。文科省の「公立小学校における英語教育実施状況調査」によれば、21年度は3、4年生で68.5%、5、6年生で50.8%の学級で担任が教えている。教員からは、従来の教科でも学習内容が増える中、英語の授業準備に手が回らないという声も聞こえてくる。柏村さんは言う。
「必修化前には(各校の代表が研修会に参加し、自校に戻って同僚に伝える)伝達講習が行われました。ただそれも『英語で英語の授業をしましょう』『楽しく、英語に慣れることができればOK』というコミュニケーション重視の方向性を示すだけで、結局は先生個人の努力に委ねられることになりました」
■小学校で消化しきれず
柏村さんはこの「コミュニケーション重視の教科書と指導法」に大きな危機感を抱いている。いうなれば「小学校からシャワーのようにたくさんの英語を浴びれば、話せるようになる」という教え方だ。例えばアメリカに移住した日本人であれば、この方法は有効だ。母語が日本語であっても、生活の中で英語のシャワーを浴びることになるからだ。一方、日本でその環境を準備するのは難しい。
「授業の中だけで、英語を第二言語のように教えるのは無理があります。むしろ英語という外国語を、母語との違いや共通点を通して学んだ方が、子どもたちは理解しやすいはずです。たくさん聞かせて話してみよう、という指導では、酷だと感じます」(柏村さん)
ALT(外国語指導助手)の活用も、個人差や地域差が非常に大きく十分ではない中、現在の小学校英語は、ざるで水を受けるような状態だ。
埼玉県の公立小学校で、英語を専科として教える50代の女性教員は、小学校の教科書は、会話や聞き取りに特化していて、中身がないことが問題だと指摘する。
「そもそも教科書が系統立ててつくられていないために、700語全ての単語を覚えさせる時間も余裕もありません。文法を順序立てて教えたいのに、教科書はそのようにつくられていません。会話文を何となく言えるようになっても、英文そのものを理解していないのですぐに忘れるし、応用もきかないんです」
(ライター・黒坂真由子)
※AERA 2023年5月15日号より抜粋