批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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統一地方選が終わった。同時に行われた衆参補欠選で与党は4勝1敗にとどまった。兵庫県芦屋市では史上最年少の市長が誕生し、世間の関心はそちらに集まっている。
しかし筆者が個人的に注目していたのは、各地で現れたネット発の候補者の結果だった。昨年参院選でガーシー元議員が高得票数で当選して以来、ネットで話題を集めれば地方議員ぐらいは簡単になれるという認識が広がり、今回は立候補が相次いでいた。その成否が気になったのである。
結論からいえば、彼らのほとんどは落選した。迷惑系ユーチューバーとして知られ、報道も相次いだ豊島区議候補は400票足らずで惨敗。新宿・歌舞伎町の女性支援事業への妨害行為で名を馳(は)せ、SNSで話題を呼んだ武蔵野市議候補も200票に届かず惨敗。大手宗教団体創設者の息子で、やはりユーチューバーとして知られる渋谷区議候補も落選。ガーシー騒動のどさくさで設立された政治家女子48党もほぼ全員が落選。党首自身も、目黒区議選で1千票余りの得票にとどまり当選は成らなかった。
この結果はまずは有権者の良識を示したものだといえる。地方選とはいえ、地元愛も問題意識も希薄な候補者が、話題性を頼りに続々通るようでは民主主義に未来はない。
ただし選挙は変わる必要がある。新しいスタイルの政治参加を排除すべきではない。よい例がスーパークレイジー君こと西本誠氏だ。2020年の東京都知事選挙に立候補、奇抜な名称やパフォーマンスで話題を集めた。そのまま消えるかに思われたが、22年に出身地の宮崎県に移住。住民との対話を繰り返し信頼を集め、今回の宮崎市議会選挙では堂々2位での当選となった。氏の経歴はじつに独特で、今後広がりのある政治家に育つ可能性がある。
候補者が若いからダメなわけではない。ネット出身がよくないわけでもない。既得権益を破壊するため常識を超えた試みが必要なのは確かだ。とはいえ承認欲求だけの立候補は有権者にも見透かされる。今回惜しくも落選した候補者には、地道な努力を積み重ねてぜひ再挑戦してほしいと思う。
◎東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数
※AERA 2023年5月15日号