四半世紀以上、エンターテインメントのトップを走り続ける西川さんだが、3年前のステイホームの時期は、手足をもがれたような気分になったこともあるという。
「エンターテイナーとして、気分がめいっている人、落ち込んでいる人たちの心に寄り添いたいと思ったものの、『外に出るな』『動くな』『人と触れ合うな』と言われてしまった。僕自身は、ずっと続けていたトレーニングを強化させて、美ボディの大会に備えたりすることで気分転換をしていたんですが、ずっと応援してくれたファンのみなさんに対して、何もできない時期が続いたのはつらかったです。ただ、考える時間はたっぷり持てた分、『何かを極めていく』という考え方のみならず、やれることがあれば手当たり次第手を出してみることも大事だと痛感しました。今回のコロナを経て、僕がいちばん変わったのは、仕事に対する考え方かもしれない」
それまでは日本人の美学として、「決めた道をひたすらに突き進むことが美しい」と思っていた。職人的な生き方こそが、自分を果てしなく成長させてくれるものだと。
「でも、外資系の企業なんかが副業や兼業を奨励しているように、われわれももう芸事一本じゃなくて、何か他のいろんなことを多面的に展開していって、自分の中で新たなカードを切っていくことが、もっと必要になってくるような気がしたんです。アーティスト活動と並行してできることって、後輩のプロデュースぐらいだったけれど、それまでに蓄積した経験や知見があれば、育成やイベントのプロデュースとか運営なんかもできるはず。僕も今は、全然ゆかりのないゲーム会社の役員をやったりして(笑)、自分から、見てもらえる角度を増やしていってる。それによって新たなファンが獲得できるかもしれないし、僕がそういう新しいジャンルに手を出すことで、僕のファンや僕のSNSをフォローしている人が、自分の新たな可能性を見いだそうとするきっかけになるかもしれないでしょう?」
そう言いつつも、西川さん自身は、放っておいても何事も極めたくなるタイプの人だ。たとえば、「THIS WEEK」の欄で、鍛えられた肉体をキープするにあたって日々取り組んでいることを聞いたのだが、食事もトレーニングも、「体のためにいいこと」を徹底させている。
「でも、今回のカンパニーはみんな僕以上に極めている人たちなんです。だからこそ、一緒に新たな可能性を見いだすことができる。今回のダンスのサウンドモチーフは、僕の楽曲も含めて、たぶん彼らがこれまでに触れてこなかったジャンルの曲もあって、それに合わせてペアダンスを踊るのは、彼らにとっても挑戦。僕も、そういう人たちの中にシンガーとして飛び込むのは、正直勇気がいることでした。でも、誰もやったことがないことだからこそ、燃える部分もあって(笑)」
(菊地陽子 構成/長沢明)
※記事の後編はこちら>>「西川貴教が語る“潜在能力を引き出す要因”「嫌な気持ちになることも大切」」
※週刊朝日 2023年5月19日号より抜粋