『心のおもらし』
朝日新聞出版より発売中
僕が主宰する演劇ユニット「ちからわざ」で、長きにわたり演出を担当している堤泰之という舞台演出家がいる。
彼が初めて演出を引き受けてくれた24年前の公演で、当時のパンフレット(といっても、完全に手弁当でやっていた公演なので、パンフレットなどという大仰なものではなく、B4のぺラ1枚)に、彼はこんなことを書いていた。
「子供の作る歌は素晴らしい。先日も、幼稚園に通うウチの娘が、見事な曲を振りつきで披露してくれた。心から楽しそうな表情と踊りの躍動感をお伝えすることができないのがとても残念なのだが、とりあえず詩だけでもご紹介しておこう。
『ウンチのお金がいっぱいあーる
いっぱいあるからあーげーる
でもちょっとくーさーいー』
こんな詩は私には書けない。別に書けなくてもいいっちゃいいんだが、なんとなく悔しい。この悔しさをバネに、これからも頑張っていこうと思う」
のっけから何を読まされているんだろうとお思いだろう。俺ものっけから何を書いているんだろうと思っている。さらにはこの堤さんの娘さんも今では29歳の立派なレディゆえ、大昔の自分のウンチの歌を、しかも振りつけ込みでウンチの歌を披露したことを急に引っ張り出されて、怒り出すんではないかと心配にもなっている。今この文を読んで頂いてる皆さまも、これから何を読まされるんだろうと不安を覚えているに違いない。大丈夫だ。「不安は感動の入り口である」という、ドイツの哲学者・シュトッドミゲルニーセンの言葉もある。いや、ない。そんな言葉は聞いたことないし、シュトッドミゲルニーセンなんて人はいない。いや、いるかもしれんが。いたらごめんなさい。シュトッドニーセンさん、ごめんなさい。いま微妙に名前が短くなったし、どこまでが姓でどこからが名かいまいち分からんし、なんなら性別も判然としないがとにかくシュトッドさん、ごめんなさい。
不安が早くも最悪の形で的中したとお思いの方々、今だ。逃げるなら今だ。あなたが逃げないと言うのなら、俺が逃げる。「逃げるが勝ち」という言葉もある。いや、ない。いや、ある。これはある。むちゃくちゃ、ある。