本書はフリーランスのジャーナリストである著者が近年の時事問題に関する執筆記事や、自身が登壇したインタビューをまとめた時評集だ。
 全体は三部構成。第一部、第二部では官邸前デモ、集団的自衛権をめぐる解釈改憲、特定秘密保護法など、この5年の間に国内で起こった出来事と、それを取り巻く政治やメディアに対する率直な批判──著者言うところの「抵抗の視線」が綴られる。ひときわ問題視されるのが、ネット上の差別的な書き込みや書店に並ぶ嫌韓・嫌中本など、近年国内に浸透する人種差別的な風潮だ。ひとたびそうした不寛容さが広がればもはや、ジャーナリズムにもアカデミズムにも打つ手はない。「相当な危機感を持っている」という著者の言葉が突き刺さる。
 第三部では、ジャーナリストの仕事は日々の出来事の記録を通し「歴史のデッサンを描くこと」という考え方を紹介しながら、自身の仕事への揺るぎない矜持を語る。若きジャーナリスト志望者に特に薦めたい一冊だ。

週刊朝日 2015年1月16日号

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