オウム真理教のドキュメンタリーなどで知られる映画監督が、メディアとの付き合い方を平易な文体で解説した新書だ。一般的に「客観的」で「公正中立」と考えられるメディアだが「絶対的に客観的で正確な記述は不可能」と著者は直球で読者に投げかける。ニュース一つ取っても、メディアはすべての出来事を伝え切れない。必ず情報の四捨五入が行われ、視聴率や部数を意識した「わかりやすい」ストーリーへと変換されるのだ。オウムや袴田事件など具体的な出来事に言及しながら、当時「中立」とされていた報道が実際にはいかなる過ちを犯していたかを検証してゆく。
「マスゴミ」という言葉があるように最近では「メディアは嘘ばかりつく」という見方も世の一部に流通している。しかし、本書はそうした見方に同調するのでもない。力点は視聴率や部数を支える視聴者・読者自身が、情報を自覚的に受け取っていくことの重要性に置かれている。メディアに批判的距離を保ちつつ、かといって断罪するだけでもない。そのあわいで報道と関わる新たな「希望」を教えられる一冊。

週刊朝日 2014年12月12日号

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