俳優の高倉健さんが亡くなったことを受けて、
テレビでは連日、健さんの出演映画が放映されています。
僕も録画しては片っ端から深夜に見ているのですが、
なかでも遺作となった「あなたへ」は
何度も見てもジーンと来ますね。
ジェットコースタームービーでもなければ、
刺激的なシーンがあるわけでもなし。
亡き妻の遺言を託された主人公が
妻の故郷を訪ねるロードムービーですね。

まだ見ていない人のためにネタバレは避けますが、
この映画で非常に印象的なシーンがあります。

妻の故郷である長崎県平戸の
小さな漁港を訪れた元刑務官の主人公(=健さん)。
坂道の多い路地を歩いていたところ、
古ぼけた写真館が目に止まります。
二眼レフのカメラと
街の人たちの古い写真が飾られたショーウインドー。
そのなかに、主人公は人前で歌う少女のモノクロ写真を見つけます。
もちろん、その少女とは幼い頃の妻です。
妻は大人になって歌手として刑務所の慰問活動を行い、
そこで主人公と出会うわけです。
主人公はガラス越しに写真を見つめ、
帽子を脱いでつぶやきます。
「ありがとう」
そして握りこぶしを軽くガラスに当てて、
その場を後にするのです。

このシーン、覚えている方も多いと思います。
実に健さんらしい演技ですよね。

それ以上に僕が注目したのは、このシーンにおける「写真の力」。
主人公は妻が亡くなってから初めて妻の故郷を訪れるわけです。
二人の出会いは実に遅く、
それぞれの過去はあまり詳しく語られていません。
そんななか、目にしたのが一枚の写真。
劇中では幼い頃の妻の映像はまったく出てきませんが、
慰問活動などで歌う立ち姿とよく似ているところや、
シーンの流れなどから、誰がどう見ても、
その少女が妻であることを理解できます。
そこにきて、健さんならではのリアクションです。
グッときますよね。

劇中で写真は一瞬しか映りません。
それでも見ている僕らの心を揺り動かし、
ドラマに大輪の花を咲かせます。
これを「写真の力」と言わず、何と言いましょうか。

ちなみに、この映画ではもうひとつ、
写真が物語の大きなカギとなります。
こちらは説明するとネタバレになるので、
ここでは明かしません(笑)。

みなさんも映画やドラマで写真が映し出されたとき、
ちょっとその辺も注目してみてはいかがでしょう。

目は口ほどに物を言う、ではないですが、
1枚の写真がストーリーを雄弁に語るというお話でした。

[AERA最新号はこちら]