東京五輪の女子体操金メダリスト、ベラ・チャスラフスカ。金髪に美貌のチェコスロバキア(当時)の選手で、多くの日本人を魅了した。ノンフィクション作家が彼女の半生と日本への深い想いを浮き彫りにする。
 プラハの春を後押しする「二千語宣言」に署名したチャスラフスカは、時の政権から迫害を受け、メキシコ五輪を目前に身を隠す。体操の器具もない山奥でトレーニングを続け、鬼気迫る演技で金メダルに輝いた。だが、署名撤回を拒みつづけたため一切の職を与えられず、20年にわたりスポーツ界から追放され、執拗な嫌がらせを受ける。名前を偽り清掃員になって生活費を稼いだ。政治に関する話をするときには家中の水を流し、盗聴の録音を防いでいたと彼女の娘は証言する。
 彼女の心を支えたのは、競技を通じて交流した遠藤幸雄選手を始めとする日本人への深い信頼と親しみ、そしてひとりの日本のファンから贈られた日本刀の「サムライの魂」ではなかったか、と著者。懐かしくも美しい日本の心が、彼女の凛とした生き方のなかに甦るようだ

週刊朝日 2014年11月21日号