本日11月1日は「1・1・1」と、1が3つ並ぶことから、「ワンワンワン」の語呂合わせで「犬の日」となっています。犬が人間の生活に関わり始めた歴史は長く、日本でも縄文時代に、犬と人間が共に生活していた痕跡が認められるのだとか。
『名犬ラッシー』、『名犬ビンゴ』など、人間と犬との関係を描いた海外の物語は多々ありますが、なかでも、本国以上に日本で人気を呼んだのが、かの名作『フランダースの犬』です。ベルギーのアントワープを舞台に、貧しい少年ネロと忠犬・パトラッシュの絆を描いた物語は、今なお多くの日本人の心をとらえてやみません。アントワープ大聖堂に飾られたルーベンスの絵の前でのラストシーンは、アニメでもお馴染みの場面となっています。
そんな『フランダースの犬』ですが、明治41(1908)年に、日本で初めて、日高善一訳で出版された際には、パトラッシュは"斑(ぶち)"、ネロは"清(きよし)"と翻訳されていたことが、本書『明治大正 翻訳ワンダーランド』に紹介されています。この"珍訳"については、2002~2012年にかけて放映された、雑学バラエティー番組『トリビアの泉』(フジテレビ系列)でも取り上げられたことがあるので、知っている方も多いかもしれません。
現代の私たちからみると「よりによってなぜその名前を?」と首をかしげたくなるような訳ですが、本書では珍訳の時代背景も交えて詳しく解説しています。本書によれば、明治時代の日本人にとって、外国語の名称、特に人名は、なかなか覚えにくいものでした。翻訳者が名作の素晴らしさを伝えるために、読者に最後まで読んでもらおうと腐心した結果が、庶民的でありふれた名前、斑と清だったのです。
著者の鴻巣友季子さんは、2003年にエミリー・ブロンテの名作『嵐が丘』の新訳でも知られる翻訳家でエッセイスト。『全身翻訳家』(ちくま文庫刊)や、『翻訳問答 英語と日本語行ったり来たり』(左右社刊)など、翻訳の裏側を描いた著作も多数。現代の私たちが、海外の名作を楽しめるのも、翻訳に尽力した先人たちのおかげと言えます。いにしえの翻訳家たちの奮闘ぶりに、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。