交通事故などでの脳の損傷や脳卒中などにより、脳の機能に障害が起こる「高次脳機能障害」。これにより、記憶障害や注意障害、遂行機能障害、社会的機能障害などが生じて、「次に何を行ったらいいかが分からなくなる」など、生活する上で大きな困難を抱えている。また、支援する側にも大きな負担を感じる人が少なくない。
このような障害を抱える人たちのために、大阪府豊中市にあるITベンチャー企業「インサイト」は、日本初となる認知障害を持つ人々を支援するAndroidタブレット用アプリ「あらた」を開発した。
「あらた」は、アラーム機能やスケジュール管理機能によって、高次脳機能障害を抱える利用者に「次に何を行ったらいいか」を教えてあげることで行動を促し、生活リズムを支援してくれるツールだ。
最初に出てくるメイン画面の「あらたパネル」では、一日のスケジュールをタイムライン形式で表示。「家の掃除をする」「病院に行く」など、次にどのような日常生活の行動を取ったらよいかを画面に大きく表示して教えてくれる。
また、予定の時間になるとキャラクターの「くーちゃん」が登場し、メロディーと音声で知らせてくれる機能も。この音声には、家族や介護士の声などを収録することも可能。
新たな予定をスケジュールに入力する時は、過去のスケジュール登録履歴から、候補を表示して選べるなど、簡単に登録できるようになっている。
さらに、チェックリスト形式で忘れ物を防ぐ機能も備えている。たとえば、病院に行く場合、「診察券を持つ」「お金の準備をする」「家の鍵を持つ」などのチェックリストを自動で表示、できたことからチェックしていき、最後に「できましたスタンプ」を押すことができる。こうすることで、行動漏れだけでなく、行動記録を残すこともできるのだ。
また、その日の行動を振り返って確認できたり、メモを作成して日付を指定しておくと、指定日に「今日見るメモ」として通知してくれたりする機能も。他にも、人の名前をなかなか覚えられない時に、顔写真と名前を登録して記憶の補助をしてくれる機能なども搭載。
このアプリは、厚生労働省の2013年度の「障害者自立支援機器等開発促進事業」で開発され、ITヘルスケア学会第8回年次学術大会で「製品賞」を受賞した。6都県の高次脳機能障害を持つ人たちと、家族会や大学病院などによる実証実験も行われ、支援をする人たちからは「本人に直接言わなくてもタブレットに従ってくれるので助かっている」「タイマー通知により自分で行動してくれるのでガスを使う時などに目を離しても安心」といった声が寄せられているという。
アプリは月額540円で利用できる。高次脳機能障害を抱える人々にとって、頼れるパートナーとなってくれるアプリかもしれない。