1960~70年代、独自の作風により一世を風靡したマンガ家、つげ義春。本書は八七年以降休筆状態にある彼の魅力を改めて世に伝えるべく編まれた一冊である。
まずは「ねじ式」「紅い花」など、本書に収められた代表作の短編に注目したい。いずれも原画であり、時代を超えた圧倒的なインパクトがある。初読者のためのQ&Aコーナーはデビュー作以降の歴史を、略年譜はつげ氏の人柄を知る手助けとなるだろう。白眉は何と言っても、本人へのインタビューだ。写真がネットに出ることを厭い日頃は人前には出ないつげ氏が、美術史家・山下裕二氏を聞き手に迎え4時間にわたり作品や自身の近況を語っている。「シュルレアリスム的」と評されることも多いつげ作品だが、本人は「創作の基調はリアリズム」と語るなど、作者自身の口を通して新たに知ることも多い。
こうした特集本が出ること自体、今なお影響力があることの証しだ。しかし「もう現役ではないのでもうすぐ忘れられる」「忘却されるのはひとつの身辺整理」と飄々と語るその口調が、いかにもつげ氏らしい。
※週刊朝日 2014年10月24日号