もしも無人島で独りぼっちになるなら、何を持っていくか?
 誰もがかつて身近な人と話題にしたことがあると思われるこの問いに、一枚のレコード(CD)、一本の映画、一冊の本という条件を付け、大人の男たち18名に答えてもらう。そうやって編まれた『無人島セレクション』は、長く編集者をやっていた者としては、ちょっと安易すぎないかと茶々を入れたくなる企画なのだが、いざ手にとってみると、つい読みふけってしまった。
 回答している中高年の男たちが真摯に自問し、記憶をひもとき、選択した作品にからめていろいろあった来し方の凹凸を告白しているからだろう。たとえば巻頭に登場する浅井慎平は、かつて自身が監督、撮影、脚本、照明を務めた映画『キッドナップ・ブルース』を選び、「ただ一度だけのたのみ」を聞き入れて協力してくれた多くの友人たちを思う。そこには主演を担った、30年余り前のタモリがいる。ひょんなことから少女と二人で旅をする孤独な中年男役のタモリ。その姿を無人島で観る孤独な老人、浅井愼平。
〈映画を観るということは映画に観られることだと、ぼくは気づく〉
 本誌でもおなじみの亀和田武は、ザ・ローリング・ストーンズの『ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト!』を持参するレコードに選んでいるのだが、その理由を綴った文章は優れた私小説のようだ。同じくこのアルバムのファンであっても、亀和田と私とでは、当然ながらそこに現れる背景は違う。或る時代を何歳で過ごしてきたかの違いといえばそれまでだが、その差異もまた、作品の新たな魅力を感じるきっかけになる。
 古典的な問いをきっかけにはじまる過去との対話は、自分がいったい何にこだわって生きてきたかを明らかにしていくようだ。だから読者もまた、気づけば記憶をたどって自問する。自分だったら何を……ちなみに私は、山田風太郎の『人間臨終図巻』を持っていくと決めている。

週刊朝日 2014年10月10日号