「乳と卵」で芥川賞を受賞した著者が妊娠、出産を経て息子が一歳になるまで、心とからだに起こったあらゆることを綴ったエッセイ。
 妊娠、出産、子育ての実況中継とでも言うか、親友に「ちょっと聞いてよ!!」と、目の前でまくしたてられているかのような臨場感にぐっと引き込まれる。
「つわり いつまで」と検索し続けたひどいつわり、「痛みって大事だと思う」「小説家なのにもったいない」などと言われながらも無痛分娩を選択したのに、まさかの帝王切開。出産後も赤ちゃんの世話に右往左往。特に、あべちゃん(夫で作家の阿部和重氏)の何もかもが無神経に思え、孤独感に打ちひしがれる“産後クライシス”のくだりが心に残る。出産で人生が一変した女が抱えるしんどさを分かってくれない男。その絶望感たるや。
 妊娠前には知るよしもなかった出来事の連続に著者の心は揺れ動き、思考が駆け巡る。その様子がストレートに響き、感情が揺さぶられる。そして、「きみに会えて、とてもうれしい。生まれてきてくれて、ありがとう。」という温かな言葉が心に染みる。

週刊朝日 2014年10月3日号

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