(写真:BOOKSTAND)
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 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2023」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、小川 哲(おがわ・さとし)著『君のクイズ』です。

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 テレビの1ジャンルとして日本でも人気を博してきた「クイズ番組」。今回紹介する『君のクイズ』は、そのなかでも「競技クイズ」というジャンルを題材にしたちょっと異色な小説です。

 始まりの舞台はクイズ番組『Q‐1グランプリ』決勝戦。クイズプレイヤーの三島玲央は、初代王者の座と賞金1000万円をかけて、東大医学部4年生で「万物を記憶した絶対的王者」との異名を持つ本庄 絆と対戦していました。ところが、大詰めとなった問題で予期せぬことが起こります。問題が一文字も読まれぬうちに本庄が早押しボタンを押し、「ママ、クリーニング小野寺よ」という解答を口にして正解したのです。こうして初代優勝者は本庄に決定。彼はヤラセをしたのか、それとも魔法を使ったのか、あるいは何か正当な根拠があって正解したのか。三島は本庄の生い立ちを調べるとともに、決勝戦の問題を一問ずつ振り返りながら真相解明に挑みます。

 クイズというと「質問をされて、それに答える」というシンプルなものに思えますが、実はかなり奥深い世界であることが知れるのもこの小説の面白いところ。クイズとは単に知識量を問うものではなく、「知識をもとにして、相手より早く、そして正確に、論理的な思考を使って正解にたどり着く競技」(同書より)なのだといいます。

 たとえば、「CNSと略されることもある三大――」と読まれた時点で「『サイエンス』」と答えて正解した本庄。「CNS」だけではケアンズ国際空港の略や中枢神経系の略の可能性もありますが、続く「三大」という言葉で三大学術誌のことであると考えられます。となれば、答えは『セル(Cell)』『ネイチャー(Nature)』『サイエンス(Science)』の三択ですが、クイズという競技のことをよく知っていれば、実はほとんど『サイエンス』一択となるそうです。要するに、クイズとは技術や経験、駆け引きなども大きく関係してくるものであること。本庄はこうしたクイズ的技術を短期間で習得したことで、「ただの暗記が得意なテレビタレント」から、クイズに人生を費やしてきた三島とも互角に戦えるほどの"クイズプレイヤー"へと成長したのでした。

 とはいえ、果たして「ゼロ文字押し」での正解など本当にありえるのでしょうか?

 同書は、この謎を解いていくミステリー小説でもあります。終盤で三島がたどり着いた真相には、みなさんもあっと驚かされるはず。けれど、さらに衝撃を受けるのは、本庄が三島に打ち明けた「真意」ではないでしょうか。これ以上詳しく話すとネタバレになってしまうので、興味を持った方はぜひ読んでみてください。

 誰ひとり死ぬことなく、クイズという題材でこれだけサスペンス要素を含んだ小説は稀有かもしれません。ボリュームもコンパクトにまとまっていて、「一気読み必至」というキャッチコピーも納得の一作です。

[文・鷺ノ宮やよい]