日新工業 生産部山形工場抄造課 課長代理、山形工場品質管理責任者 荒井洋輔(あらい・ようすけ)/1982年、山形県寒河江市生まれ。2004年、入社。10年に生産部山形工場抄造課配属。22年に品質管理責任者。品質管理、原紙製品開発、ラグ原紙製造ライン改善プロジェクトを担当(撮影/写真映像部・東川哲也)
日新工業 生産部山形工場抄造課 課長代理、山形工場品質管理責任者 荒井洋輔(あらい・ようすけ)/1982年、山形県寒河江市生まれ。2004年、入社。10年に生産部山形工場抄造課配属。22年に品質管理責任者。品質管理、原紙製品開発、ラグ原紙製造ライン改善プロジェクトを担当(撮影/写真映像部・東川哲也)
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 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年3月20日号には日新工業 生産部山形工場抄造課課長代理、山形工場品質管理責任者の荒井洋輔さんが登場した。

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 雨漏りや建物の劣化を防ぐため、家の屋根やマンションの屋上に施工される防水シート。その芯材となる原紙を製造する山形工場で、若手ながら社長肝いりの改革プロジェクトのリーダーに任命された。

「重圧はありますが、その分やりがいも大きいです」

 原紙は基本的に綿やパルプでつくられているが、同社では古紙や古着を一から処理し、再利用している。今でこそ多くの企業が掲げるSDGsだが、工場が創業した60年前から廃棄物の資源化に取り組んできた。

「その姿勢は最先端ですが、狭い業界でもあり、製造方法が確立されていませんでした。原紙の出来具合にばらつきが出ても、何が原因かわからない。再現性、恒常性がなかったんです」

 なんとなくだけど出来上がるからこれでいい。物が不足している時代はそれでも売れた。だが、ユーザーの視点が大切にされる今、このままでは競争に勝ち抜けない。製造方法の確立や効率化、製造ラインの改善が急務だった。

 プロジェクトの始動は2019年12月。課題は山積していたが、まずは長年原紙を製造している現場の先輩たちを説得する必要があった。なぜやり方を変えなければならないのか、変えることでどうなるのか。データを元に論理的に説明し、実践した。

 反発もあった。現場では原紙がつくれなくなったわけでもなく、機械もこれまで通りに作動する。「変えなくてもいいのではという意見があって当然です。私自身に対して若いのに生意気だという思いもあったかもしれません」

 ただ、自身も現場を経験していて、苦労は身にしみている。「夏は40~50度になることもあり、冬は山形という土地柄もあってかなり寒い。そんな環境で懸命に作業している先輩方を尊敬しています」

 実直な人柄で、誠実に対応し続けた結果、改革は順調に進んでいる。現場の作業効率も上がり、一人ひとりにかかる負担も軽減された。現在は防水シートが劣化しにくくなるよう、原紙に何を加えたら強度が増すかも研究中だ。

「改善はまだ目標の3分の1程度しか進んでいませんが、一つひとつ地道に成果を出すしかない。何が正解かわからないことだらけですが、会社とともに成長し、少しでも納得のいくものをユーザーに届けたい」

(ライター・浴野朝香)

AERA 2023年3月20日号