落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「金髪」。
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大学3年の冬でしたか。私がアパートで目を覚ますと、枕元に脱ぎ捨てたジャンパーに一本の金髪が付着しているのに気がつきました。長さおよそ25センチ。私は極度の二日酔い。二日酔いがつらいときって、なぜかどうでもいいことを行き止まりまでトコトン考え続けたりしませんか? 私はするのです。どこから来たのだ、この金髪は。
金髪の友人はいないし、ブロンド娘と付き合ったこともなければ、話す勇気もない。近々で身近な金髪は……こないだ正月の寄席で観た獅子舞くらい。獅子頭の毛にも見えなくないけど、お獅子に頭を噛まれてもないし客席から「めでたいねぇ」と呑気に眺めてただけ。暮れの「ニューイヤーロックフェスティバル」もテレビ視聴。よって内田裕也さんの金髪という可能性はゼロです。
まてよ、昨日はこのジャンパーを着てどこかで飲んだな。近所の居酒屋で友人Aと。Aもその店の主もバイトにも金髪はいない。
酩酊して自宅までの帰り道に誰やら知らない人の金髪がフワフワと漂って、偶然私のジャンパーに着陸したのか? そんなつまらない理由はいやだ!
もっと夢のある、そして可能性もある出どころを突き止めたい!
居酒屋の前はAと埼玉の戸田市スポーツセンターへ全日本プロレスを観戦に行ってたんだ。
隣の席はAと赤の他人のハゲたおじさん。物販ブースでTシャツを買い、ラッシャー木村にサインをもらったがラッシャー木村は金髪ではない。上田馬之助さんはその頃の全日にはもういない。ノーフィアー(大森隆男選手と高山善廣選手と浅子覚選手のユニット)はまだ金髪にしてない。客席とリングは距離があるから選手のものではないか……いやまてよ(2度目)。スタン・ハンセンの入場時。私はハンセンにブルロープで殴られた。観客を薙ぎ倒すようにロープが飛んできて、私は嬉々としてぶつかっていった。ハンセンは金髪! ことによるとハンセンの!?