思想家、作家として活躍する一方で、『思想地図β』編集長やゲンロンカフェを運営する会社の社長も務める東浩紀。『存在論的、郵便的』で注目された人らしく、その著作には「難解」のイメージがつきまとってきた。しかし、最新刊となる『弱いつながり』はこれまでとは違っていた。
 副題に「検索ワードを探す旅」とあるこの本は、本人も序文に書いているように、「哲学とか批評とかに基本的に興味がない読者を想定した」ものだった。実際、語りおろしのエッセイを再構成した読みやすい文章によって、ネットに統制された時代にいかに「かけがえのない生き方」を実践するか、その具体的な方法論と根拠が示されている。
 それは、<グーグルが予測できない言葉で検索する>ために<場所を変える>ことだけと東は説く。
「ググる」でおなじみグーグル検索のカスタマイズ技術の進化はめざましく、こちらの好奇心を予測して該当する言葉を先に出してくる。この機能はたしかに便利だが、日々使いつづければ、グーグルが取捨選択した枠組み(世界)でしか考えられない、強い絆にからめとられた状況に陥りかねない。とはいえ、ネットなしの生活はもう難しい。ならば、いかなる進んだカスタマイズ機能にも予測できない言葉を入手するしかない。そのためには、<環境の産物>である人間らしく、自分の環境そのものを変えればいい。
 この東の主張は、だから、必然的にネット時代の「旅のすすめ」へとつながる。自分の置かれた環境に留まって強い絆ばかりに囚われているのではなく、たまには、観光客としてでもかまわないから異なる環境へと出ていき、そこで偶然出会った「言葉」を検索してみる。そうすれば、そこから弱い絆が生まれ、自分の人生に新たな世界を獲得できる。
 東らしからぬ人生論を装いながら、この本には、ネット時代にふさわしい哲学が満ちている。

週刊朝日 2014年8月29日号