窓辺で母親に抱かれ、赤ちゃんが嬉しそうに笑う。そんな穏やかな写真のページをめくると一転、髪を振り乱し嫌がる女性の姿が飛び込む。「誘拐結婚」の現場の写真だ。
本書は、写真家の林典子さんがキルギスに5カ月滞在し、男性が女性を誘拐する現場や、結婚式、結婚後の生活などを収めた写真集。
結婚を断られたから、一目ぼれしたからなど、男たちはさまざまな理由で女性を誘拐し、自分の自宅へと連れていく。未婚の女性が男性の家へ入ることは、「純潔」を失ったとみなされる上に、一家総出で女性を説得にかかる。何時間もの抵抗の末、ほとんどの女性が無理やり結婚させられる。
だからといって、女性が皆、不幸になるわけではない。幸せだと話す女性も多い。その一方で、夫から暴力を受ける女性や、レイプされ、自殺した女性もいる。キルギスに「慣習」として存在する誘拐結婚を、私たちの価値観で一方的に否定できるのだろうか。
呆然とする顔、穏やかな顔、眉間にしわの寄った顔、遠くを見つめる顔。女性の表情が、心を揺さぶってくる。
※週刊朝日 2014年8月1日号