『アート・テイタム・ベン・ウエブスター・カルテット』アート・テイタム、ベン・ウエブスター
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『プレス・アンド・テディ』レスター・ヤング、テディ・ウイルソン
『フォー・ミュージシャンズ・オンリー』ディジー・ガレスピー、スタン・ゲッツ、ソニー・スティット

『ピック・ユアセルフ・アップ』アニタ・オデイ

 1回目はチャーリー・パーカーとバド・パウエルで終わってしまった、ヴァーヴ・レーベル紹介の2回目です。オトナのレーベルというイメージが強いヴァーヴですから、まずはその辺りから。つまり、スウィング時代から活躍していた大物連中です。筆頭に挙げるべきは、アート・テイタムとベン・ウエブスターが共演した強力盤『アート・テイタム・ベン・ウエブスター・カルテット』でしょう。なんと言っても彼らの聴き所は「味の濃さ」ですね。

 モダン期ミュージシャンのようなスピード感は無いにせよ、ゆったりとした語り口が冗長に聴こえないのは、音色、フレーズにこってりとした濃厚な味付けがなされているからなのです。こればかりは若手連中にはまねできません。同じ切り口でもう一方の大物同士、レスター・ヤングとテディ・ウイルソンの『プレス・アンド・テディ』もお薦めです。

「彼らの絶頂は期もっと昔」という「通」の言い分ももっともなのですが、1950年代の良質な録音で聴けるという長所も忘れてはいけません。ジャズ入門者には、むしろこの時代のわかりやすい演奏から入るメリットの方が大きい。

 今ご紹介したアルバム2枚もそうなのですが、ヴァーヴ名物、大物同士の顔負わせという視点では、ディジー・ガレスピー、スタン・ゲッツ、そしてソニー・スティットががっぷり四つに組んだ吹きまくり盤『フォー・ミュージシャンズ・オンリー』に止めを刺します。えてしてこの手の作品は「看板倒れ」になるケースが多いのですが、これは例外的に「看板に偽りなし」。3人とも名手だけあって、単なる「ブローイング・セッション」に終わらない迫力充分の演奏です。

 ヴォーカルに目を移せば、アニタ・オデイの傑作群がヴァーヴに集中しています。『アニタ・シングス・ザ・モスト』『ピック・ユアセルフ・アップ』そして、『ジス・イズ・アニタ』と彼女の代表作が目白押し。歌ものファンならどれを買っても間違いありません。

 そして、ヴァーヴのオーナー・プロデューサー、ノーマン・グランツご贔屓、オスカー・ピーターソンも外せません。ただ、個人的には「ちょっと弾き過ぎ」なところが気になるので、ここは好みで『フランク・シナトラの肖像』を挙げておきましょう。あまり知られていないアルバムですが、趣味の良い演奏が私のお気に入り。ピーターソンがらみの傑作では、ソニー・スティットのリーダー作『シッツ・イン・ウィズ・オスカー・ピーターソン・トリオ』も両者のいいところが出た名演です。

 渋めの名盤ということでは、クール・ジャズで鳴らしたリー・コニッツと、コルトレーン・カルテットで名を売ったエルヴィン・ジョーンズの異色対決『モーション』が素晴らしい。原曲の旋律がほとんど出てこない『ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ』を聴けば、コニッツが只者で無いことがわかるはず。エルヴィンの煽りを発止とばかり受け止めた切れ味の良い即興が冴えまくりです。

 同じコニッツでも、『ヴェリー・クール』は、タイトルだけですが「看板に偽りあり」で、むしろ「ウォーム・コニッツ」。しかし演奏は素晴らしく、トランペット入り2管クインテットという編成がこの場合正解。[次回7/21(月)更新予定]

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