著者は、ハングルの成り立ちを読み解いた研究で数々の賞を受賞した言語学者。本書では「ハングルという文字から日本語という言語を照らす」ことを試みる。
 なぜハングルなのか。それは「日本語とそっくりの構造を持つ韓国語という言語と照らし合わせるがゆえに、初めて明らかにし得ること」があるからなのだ。
 著者は「音と文字」「語彙」「文法」「書かれたことば」「話されたことば」の五つの観点を提示する。特に面白いのが、書かれた言葉の「視覚的な触感」について綴っている部分だ。現代の小説家川上未映子と明治・大正時代の歴史家山路愛山の文章を参照し、平仮名、片仮名、漢字、振り仮名の混淆によって生み出される日本語の「視覚的なモザイク性」を指摘する。一方、ハングルだけで書かれたものは、均質的で言葉の触感がそれほど際立たない。文字の表記から個性を感じ取れるのは日本語の大きな特徴なのだ。
 丁寧な説明があり、韓国語の分からない読者にも読みやすい。ユーモアに富んだ著者の語り口も本書の読みどころだ。

週刊朝日 2014年6月20日号