最近やたらいろいろな種類の新書が出てきて新書の地位が全体的に下落してる中、中公新書が岩波新書と並んで「重み」をかもしだしているのは、あの、ページをめくるとときどき挿入されている「戦後すぐ」みたいな写真の質感のおかげではなかろうか。しかし、カラー写真となるとさすがにそんな暗さはない。この本は、道ばたの、アスファルトのすきまやコンクリートブロックの裂け目に、ささやかに咲いている、いつも見ている、いや見慣れすぎて記憶にすらない草花のオールカラーの図鑑だ。
 春のノースポール、初夏のヒメジョオン、夏のヒメヒマワリ、秋のセイタカアワダチソウなど、110種が紹介されている。写真に情緒がないが、図鑑だからそれでいいのだ。最近の新書だと、写真がへんにアート写真ぽかったりして、そのことがかえって軽佻浮薄をかもしだすのだが、これにはそんなものが一片もない。反対に、中公新書の格の高さを感じさせてくれる。が、同時に「面白さ」に欠ける。淫靡なところがまったくない、あまりにもきっちりした写真なので、「片隅にあったものを“見つける”」という喜びを感じづらくなってる。
 文章は割と面白い。理科の教科書にスミレの写真を載せたら「うちの学校は都会にあるので、こんな花を見つけることは不可能」というクレームをもらったという話に、「東京の都心部でも、ちょっとした隙間でふつうに目にする花なのに。その学校、いったいどんな近未来都市にあるのだろう」とか。これけっこうプンスカしながら書いてると思うな。それが妙に笑えるのだ。オニノゲシという草について「全体に安普請な感じがするが……他の植物の影にならないためには、軽量素材でさっさと積み上げてゆくこのやり方が正解だったのだろう」とかもおかしい。
 会社の昼休みにでも道路の隅っこを探して、この本に出てる花を見つけたら、著者がそれについてなんと書いてあるか確認するとより面白いと思う。

週刊朝日 2014年6月20日号