『FIVE LIVE YARDBIRDS』THE YARDBIRDS
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『FIVE LIVE YARDBIRDS(Dig)』THE YARDBIRDS ※ボーナストラック入り
『FIVE LIVE YARDBIRDS(Dig)』THE YARDBIRDS ※ボーナストラック入り

 エリック・クラプトン加入から半年、サニー・ボーイ・ウィリアムスンとの共演から3カ月後となった1964年3月13日、ヤードバーズはロンドンのマーキー・クラブで、作品化を前提とした本格的なライヴ・レコーディングを行なっている。その成果が、同年暮れにリリースされた『ファイヴ・ライヴ・ヤードバーズ』。これが、発表順でいうと、クラプトン初の公式アルバムとなった。

 収められている曲は、チャック・ベリーの《トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス》、ハウリン・ウルフの《スモークスタック・ライトニング》、アイズリー・ブラザーズの《シーズ・ソー・リスペクタブル》、エディ・ボイドの《ファイヴ・ロング・イヤーズ》、ジョン・リー・フッカーの《ルイーズ》、ボ・ディドリーの《アイム・ア・マン》、《ヒア・ティス》など10曲。ヤードバーズだけではなく、ブルースを指向する当時のブリティッシュ・バンドのほとんどが取り上げていた、定番の名曲集といった趣である。その選曲は、基本的には、ヴォーカル/ブルースハープのキース・レルフを中心に決められていったものだろう。

 パフォーマンスもレルフを中心にしたもので、クラプトンは過剰に自分の存在を主張することもなく、決められた進行のなかできっちりと役割をはたしているのだが、後年発表の『フロム・ザ・クレイドル』にも収められるスロー・ブルース《ファイヴ・ロング・イヤーズ》などいくつかの曲からは、なにか大きなものをつかみかけていたという印象を受ける。19歳の誕生日まであと17日。なんとも恐るべき18歳である。

 注目すべきは、ステージ上でのMCやアルバム・クレジットにも残されているのだが、あの「スロー・ハンド」というニックネームが、すでにこの時点で定着していたこと。それほど注目を集めていたということだ。

 ブルース/ロック系ギタリストの個性を決定づけるのは、弦に張力を加えて音程を変えるベンディング(日本ではなぜかチョーキングと呼ばれている)だといっていいだろう。弱冠18歳のギタリストを際立たせていたのも表情豊かなベンディングであったわけだが、当時は弦の選択肢がほとんどなかったため、ベンドを多用すると、弦がすぐに切れたらしい。それはステージ上でも容赦なく起き、クラプトンは自らその場で弦を張り替えていた。当然、演奏は数分間中断。すると、観客は若干の嫌みをこめて、緩いテンポの手拍子を送る。スロー・ハンドクラップ。いかにも英国的な意思表示だが、つまりここから、のちにアルバム・タイトルともなるあのニックネームが生まれたのだった。[次回6/18(水)更新予定]

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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