(c)2023 GIFT Official
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「因縁の、ですよね。北京五輪でやりきれなかったという思いが強くあったプログラム。あのプログラムには夢をつかみきるという物語が自分の中にあり、この『GIFT』も夢という存在が大きくある。あの時、つかみきれなかったものをつかみとるんだ、つかみきれていない夢に向かって突き進むんだ、というイメージで滑らせてもらいました」

 東京ドームという広い空間では、壁もなく距離感が分からなくなる。ドームの特性上、気圧を外気より高くしているため、ジャンプはいつもより上がりにくかったはずだ。

「技術的にいえば、平衡感覚はすごくつかみづらかったです。でも、これだけの方々の前で歓声を浴びながら6分間練習や試合のプログラムをやって、本当に幸せでした」

 後半は、羽生さんの内面の葛藤がさらに深く描かれていく。羽生さんはその物語の真のメッセージをこう説明する。

「僕の中では『ペルソナ』。みなさんが社会にいる時に使っている自分の顔や仮面、そういったイメージで考えてくださると。こうやってしゃべっている時もきっと、自分が見せたい羽生結弦を出していると思いますし、話しながらも、心の中でくすぶっている羽生結弦もいる。それはたぶん、僕だけじゃなくて皆さんも。だから自分自身も皆さんも持っている、本質的な皆さんとペルソナの皆さんを認めてあげられるような時間になったらいいな、と思います」

 彼が「ペルソナ」つまり「仮面」と話すテーマを象徴するのが、ショー後半に登場する「オペラ座の怪人」だった。仮面をつけた羽生さんが大画面に映し出され、画面外に作られた巨大な手と一体化する。その巨大さが、羽生さんが葛藤してきた「ペルソナ」が、厚く重い仮面であったことを想像させる。

■仮面を取り払うしぐさ

 リンク周囲から噴き出す炎のなか、魂を燃やすような「オペラ座」を滑りぬくと、最後は、仮面を取り払うしぐさで演技を終えた。ショー全体に対しても、「仮面を捨てる」というメッセージ性を込めるようなシーンだった。

「僕の半生を描いた物語でありつつ、でも、皆さんにとってもこういう経験あるんじゃないかなってつづった物語であり。少しでも皆さんの『独り』という心に贈り物を、『独りになった時に帰れる場所を』と思って作りました」

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