(c)2023 GIFT Official
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 羽生結弦さんが単独アイスショー「GIFT」を開催した。東京ドームでのスケーターの単独公演は史上初。「一期一会」の演技で、3万5千人の観客を魅了した。AERA 2023年3月20日号の記事を紹介する。

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 プロ転向した羽生結弦さん(28)が2月26日、フィギュアスケート史に残る、東京ドーム単独公演を完遂した。

 これは単なるアイスショーではなかった。今まで受け止めたことのない壮大すぎる物語の世界に引き込まれ、公演直後には咀嚼(そしゃく)しきれないほどの情報量と感動があった。そして、公演を思い出し、再び配信を見直して「追いGIFT」していくことで、また違った側面が出てくる。そんな七変化を遂げていく舞台だった。

「フィギュアスケートって、言葉のない身体芸術だからこそ受け手の方々がいろんなことを感じることができるのが醍醐味(だいごみ)かなって思っていて。だからこそ物語を作って、その物語の一つのピースとしてプログラムが見られた時に、どんなことを皆さんが受け取ってくださるかなということを考えながら構成していきました」

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■前半最後のプログラム

 ショー全体は、羽生さん自身が書いた物語に沿って進んでいく。ナレーションは自身が務め、大画面に登場するのも彼自身だ。夢を目指し、孤独と葛藤し、努力が裏切られ、それでも夢を諦めずにもがく。どれほどの孤独と使命感、そして夢への渇望の思いで一つ一つの試合を戦い抜いてきたのか、彼の半生を振り返らずにはいられない場面が続く。

 前半は物語に合わせながら、「火の鳥」「Hope & Legacy」、「あの夏へ」(千と千尋の神隠し)、「バラード第1番」と新旧のプログラムを披露した。大画面の映像や、氷上に映し出される映像、そしてダンサーの演技、炎の演出など、すべてが今までに見たことのない大迫力の舞台である。

 そしてアスリートとしての最高の資質を、これでもかと見せつけたのが、前半の最後のプログラムだった。

 会場全体が通常照明に切り替わり6分間練習が行われ、ジャージーを脱ぐと、現れたのは2022年北京冬季五輪のショートプログラム(SP)「序奏とロンド・カプリチオーソ」の衣装。コロナ禍のため一般客なしで開催された五輪を誰もが思い出す。羽生さんはあの日、歓声のないリンクで孤高の戦いに挑み、SP冒頭の4回転サルコーで氷の溝にハマるアクシデントがあった。

 そこから1年、この日を誰もが待っていた。声援が解禁された東京ドームに、「頑張れ!」の声がこだまする。羽生さんは3万5千人のエールを胸に、4回転サルコーを含めすべてのジャンプを降りた。

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