19世紀後半、中国四川省の山奥でフランス人宣教師にパンダが“発見”されるや、その愛くるしい風貌に世界中が熱狂。クマかレッサーパンダかの生物学的議論も巻き起こし、いまや外交で大きな力をもつ存在になっている。ようやく明らかになってきたパンダの生態と共に、150年の数奇な歩みをたどる。
最初の80年は中国動乱期だったが、欧米人が大挙して押し寄せ、パンダ狩りに狂奔した。戦後は共産中国が国の広告塔として徹底的に管理、重要な外交カードとして利用し始める。
人々に愛される一方、常にメディアの政治批判の道具にされ、からかわれ揶揄される存在でもあった。WWF(世界自然保護基金)はパンダを野生動物保護のシンボルに祭り上げたが、中国との共同保護プロジェクトは、双方の「パンダは自分たちのもの」という意識のせいでたびたび危機に陥ったという。
何が何でもパンダが欲しいという欲望と、パンダを守りたいという執着。パンダの歴史から見えてくるのは人間のバカさ加減だ。人のエゴと善意ほど始末に負えないものはない。皮肉な思いにため息が出る。
※週刊朝日 2014年3月21日号