戦後、日本のテレビ放送がどのように始まったのか、あまり一般には知られていない。この娯楽の王様を広めたのは、実は日米両国の高度に政治的な思惑だったという。導入にかかわった米政府関係者の証言、日米の膨大な史料を追いながら、舞台裏でくり広げられたすさまじい暗闘の全貌を明らかにしている。
始まりは、アメリカ人発明家が占領下の日本でテレビ放送ビジネスを始めようとしたことだった。しかし東西対立が激化する世界情勢の中で、アメリカの議員グループが反共プロパガンダに使うことを画策。さらにはジャパン・ロビーが密かに米軍の軍事通信網に利用しようと動き、CIAまで暗躍した。日本側も放送事業を牛耳って総理の椅子を得ようとするメディア王・正力松太郎や、経済復興のためにアメリカから電源借款を引き出すカードにしたい総理・吉田茂など、そうそうたる面々が映画顔負けの謀略と裏切りを繰り返す。だが、最後に待っていたのは意外な結末だった。
新しいメディアはいつも「国民を操るツール」という裏の顔を持っている、ということに改めて気づく。怖い本である。
※週刊朝日 2014年3月14日号