拘置所の刑務官を経てマンガ家デビューしたという、少々変わったバックグラウンドを持つ作者。現在は映像制作や脚本を手がけるなど、多岐にわたって活躍している。独特の着眼点で笑いのツボを刺激する手腕は、この短編小説集においても冴え渡っている。
 収録されている短編のタイトルは全て「○○をノベライズする」。○○の部分に入るのは「笑っていいとも!」や「ジャパネットたかた」など、誰もがテレビで観たことのあるものばかり。たとえば「『笑っていいとも!』をノベライズする」は、タモリの口癖「髪、切った?」から始まるが、番組のお約束をなぞりながらも、ストーリーはいつの間にか脇道に逸れ、クライマックスでタモリは「いまだ戦後は終わっていない!」と痛感するに至る。まるで繋がりのなさそうな事象が見事に結びあわされていく様子が、ただただおかしかったり、思わず唸らされたり。「この小説は作者の妄想にもとづいたフィクションです」とのことだが、作り話と分かっていても、本書を読んだ後、わたしたちのテレビに対する眼差しは変容を免れない。

週刊朝日 2014年3月14日号

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