『セカンドアルバム(仮) (2CD / 初回限定盤)』アップアップガールズ(仮)
『セカンドアルバム(仮) (2CD / 初回限定盤)』アップアップガールズ(仮)

 12月22日、ぼくは横浜・赤レンガ倉庫にいた。ロマンティックな場所だ。だがロマンティックなのは自分ではなく周りにいるカップルたち。ところでカップルという言葉、若い人の口からはあんまりきかない気がする。もう死語なのか? 

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 などと思っているうちに、「聖なる夜の贈りもの2013 in 赤レンガ アップアップガールズ(仮)アプガ第二章(仮)クリスマスイブイブイブ決戦 ~横浜赤レンガ~」の開場時間になった。これからこの場所で、世界中の誰よりきっとロマンティックで浮かれモードな瞬間を味わうことになるのだ、宇宙で一番ホットな気分になるのだ、と実感してくると心が弾みそのまま口から飛び出して赤レンガ倉庫内の敷地をコロコロ転がってそのまま海に落っこちそうな勢いだ。
 アプガはこの日のために新曲≪サンタクロース≫を用意している。それもぼくが公演を楽しみにしていた理由のひとつだ。そのCD(個人的には(仮)CDと呼んでいる)が入り口付近の売店に並んでいるので、さっそく買う。

 ああ、(仮)CDを手にするのは、いつぶりだろう。六本木umuに、でんぱ組.incやテクプリと出たときか、それとも汐留だったかの黒船公演のときか。パッケージ裏にメンバーの生写真がついていて、すごく嬉しかったものだ。もちろん今回も生写真がついている。なかにはサイン入りのものもあったそうだが、自分のには書かれてなかった。チケットの整理番号も決して良くなかったけれど、舞台下手(しもて)にちょうど1つだけ開いている場所があったので、そこに前線基地をおいた。

 考えてみれば、ぼくは赤レンガ倉庫でいろんなライブを見ている。手元の手帳をひっくり返すと2012年5月6日には「さくら学院 2012年度転入式 / 生徒総会」に足を運んでいた。そうだ、ゆい・もあ・はなさんはこの日から制服がネクタイになったんだ。そして小等部に3名が加入した。科学究明機構ロヂカ?は、まだ生まれていない。たしかこの年の秋の雨の日、恵比寿ガーデンプレイスでぼくはロヂカ?の初ライブを聴いて全身に鳥肌を立たせたのだった。

 いつの間にか場内が暗くなった。しかしステージ上には誰もいない。だが歌は聴こえてくる。アプガ、どこにいるのだ? あまりに神々しすぎて、人間の視界では捉えられなくなってしまったのか? と思ったら、後方のドアからアプガの面々が入ってきたではないか!
 驚き、沸きに沸くファンたち。歌が聞こえないほどの声援だ。歌っている曲が≪ぴったりしたいX'mas!≫だと、ぼくがわかったのは2コーラス目に入ったあたりのこと。プッチモニという3人組グループ、正確にいえば第2期プッチモニが2001年に発表したシングルのカヴァーである。アプガと冬の歌、といえばDVD『アップアップガールズ(仮)がGoing my ↑を初披露したライブのDVD!(仮)THE DVD Part.3』に入っていた≪王子様と雪の夜≫が泣けて泣けてどうしようもなかったが、赤レンガでの、どこまでも明るくはっちゃけた≪ぴったりしたいX'mas!≫も絶品だった。佐保明梨のばらまいたキャンディー(?)は飛んでこなかったけれど、今日もアプガに1曲目からノックアウトだ!

 ≪サンタクロース≫が歌われたのは、ライブの中盤をやや過ぎたあたりだったと思う。過熱した場内の温度を≪虹色モザイク≫で下げ、さらに≪サンタクロース≫で切なさを注入する。アプガのガーリーな部分が極まったラブソング(といっていいだろう)だ。ぼくのようなオッサンでも胸にしみるものがあるのだから、アプガと同年代の女性ならきっと共感しすぎて泣き出してしまうひともいるのではないだろうか。
 大きくフィーチャーされた佐保明梨と関根梓の歌声が、またいい。この日の横浜はただ寒くて風が強いだけだったが、この曲をきいているとき、脳内には満天の星空とまんまるの月、汚れひとつない雪景色がフルスクリーンで現われる。アプガはまた、ファンを新たな情景にいざなってくれた。

 続く大きなライブは翌週の29日、川崎CLUB CITTA'で行なわれた。ここはまた、プログレッシヴ・ロックの聖地である。ぼくもPFMやオザンナを見た。しかも会場向いのビルにはタワーレコードが入っているから、あえて早めに到着して時間をつぶすのも楽しい。アイドル・コーナーにはアプガの直筆メッセージもある。この日の公演のタイトルは、「アップアップガールズ(仮) アプガ第二章(仮) 大晦日イブイブイブ決戦」。アプガの激しさを凝縮したような、とにかく熱狂的なライブだった。ただでさえ熱いアプガなのに、この日は輪をかけて熱い。アプガが暴れまわるステージの床に生卵をおとせば、たちまちターンオーヴァー状態の目玉焼きが仕上がるに違いないし、ハラミやカルビをおけばたちまちジュッという音と共に煙が立ち上がり、香ばしいにおいが鼻腔をかすめるはずだ。

 なぜそこまで燃え上がるのか。それを尋ねるだけ野暮というものだ。この日のアプガはMCを極力抑え、とにかくアップ・テンポの激烈ナンバーを凶暴なまでに歌い踊った。客席にはいくつもの“出島”があり、ファンがそれを囲む形となっている。出島と客席の距離は、とんでもなく近い。等身大の各メンバーが入れ替わり立ちかわり、目の前に、ものすごい勢いで突進してくるのだから、嬉しいにもほどがある。
 照れくさいから目線をそらそうそらそうとしても、どうしてもレスが来てしまう。それをモロに受けて、むちゃくちゃ赤面してしまう。そのくらいの近距離なのだ。だがこれも運営側がアプガ・ファンを信頼しているからだろう。みんな我を忘れて熱狂しているが、けっして仕切りによじ登ったりすることもないし、リフトやモッシュもない。ピースフルな現場の雰囲気があるからこそ、アプガはあそこまで超至近距離のパフォーマンスを行なうことができるのだ。

 アプガは17曲中12曲を連続で披露した。まだアプガのライブを体験されたことのない方にこれを説明すると、たとえは少し古いかもしれないが“ビリーズ・ブートキャンプを1時間以上やりっぱなし”という感覚に近いのではないかと思う。
 まだZがつく前、早見あかりの脱退がカウントダウンに近づいていた頃の、ももいろクローバーが6曲連続、7曲連続とかをやって、その都度ファンを驚嘆させていたことがある。「なんという凄まじさだ。こんなにすごいものが人間技だなんて」と、なにかひとつの極限を見てしまったような恐ろしさを感じたものだ。しかしアプガのそれは「もう人間技ではない」と断言していいだろう。いや、断言する。ショートの新井愛瞳を除くメンバーは皆、髪の毛が乱れないようにしばっていた。衣装も、コスチュームというよりもユニフォームという感が強かった。

 12曲連続の前に、森咲樹が「みんなで準備体操をしましょう」とファンに呼びかけ、ラジオ体操第1に乗ってアプガ+観客が一緒に体操をした(ぼくがこれをしたのは高校生のとき以来だ)。そして水分をとるようにも言った。「これからとんでもなく激しいライブになるから覚悟しておけ」というメッセージだ。後日きいたところによると、それでも幾人かのファンは途中でバテ、床にへたりこんでしまったという。

 そして最後(17曲目)は、狂気の沙汰というべき展開でとどめを刺した。題して≪年末アプガのリバースMix≫。この日、歌ってきた曲をメドレーにして逆からもう一度パフォーマンスするというものだ。つまり16曲目から1曲目に向かって超高速で戻っていくのだ。所要時間17分。く、く、狂っている・・・・。
 観客はもうヘロヘロでラリラリだ。アプガの面々の動きはさらに鋭さを増し、目は虚空を見つめ、踊りながら大笑いしているメンバーもいる。「演じる側」と「見る側」の垣根は完全に取り払われた。メンバーもファンも等しくハイになって頭のネジを飛ばした。しかもアプガは同内容のライブを、この日、2度も行なっているのだ!
 しかも横浜・川崎公演と前後して、ニューシングル≪虹色モザイク / ENJOY!! ENJO(Y)!!≫のリリースイベントに駆けずり回っていたのだから、まったく、なんという超人ぶりだ。

 このジャケット写真、一部ではモーニング娘。の『セカンドモーニング』を意識したのではないか、ともいわれている。当時のモーニングは今のアプガ同様、7人だった。ウィキペディア(けっこうアテになるときもある)で調べたら“初回盤はトレーディングブックレット1種付き。トレーディングブックレットは全7種(7色:赤、橙、黄、緑、水色、青、紫)”だったのだそうだ。
 アプガは水色のかわりにピンクがあるものの、まあ、共通しているといえなくもない。といっても、ぼくが「虹モザ」のジャケットを見て最初に思い出したのはジョージ・ハリスンのドキュメンタリー映画「リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド」のポスターなのだが……。

 リリイベは、ららぽーとTOKYOBAY、渋谷マルイシティ、お台場ガンダム前で行なわれた(計5回)。25日のクリスマス当日に行なわれたマルイシティ、このときも感動ものだった。だって考えてもみてほしい、クリスマスにアプガと同じ場所で、同じ時間を過ごせるのだ。これこそ、ものすごいリア充ではないか?

 5時の回では≪ENJOY!! ENJO(Y)!≫、≪虹色モザイク≫、≪Starry Night≫、≪ストレラ!~Straight Up!~≫、7時の回では≪ENJOY!! ENJO(Y)!≫、≪アッパーカット!≫、≪虹色モザイク≫、≪サンタクロース≫。煽り隊長としてだけではなくオシャレ番長としても支持急上昇の佐藤綾乃がコーディネイトした衣装も、アプガの新しい魅力を引き出していた。
 なんという充実した1日、なんという感動的なクリスマス・プレゼントだったことだろう。「毎日がクリスマスだったらいいのに」と無茶なことを思いながら、ぼくは頭の中でアプガという名のジングルベルを鳴らした。

 29日ガンダム広場でのリリイベは、第1回目の開始がマイクの不調によって遅れてしまった。だが転んでもタダで起きないのがアプガ。機転の利き方もまた、とんでもなく素早い。
「寒空の中、待っているファンを少しでも喜ばせたい」と、仙石みなみと古川小夏が生きているマイクを使って漫才のようなMCを始め、佐保明梨は売り子になって広場中のひとにアプガの存在と新曲CDをアピールした。
「アップアップガールズ(仮)七大都市(仮)化 計画」(※先月の記事参照)で人間試聴機を体現した彼女はこの日、「人間キャンペーンカー」と化していた。音声がどうにか復調してからのアプガはいつも通り、燃えに燃えた。観客が秒単位でどんどん増えていく、といっても過言ではないほどの混雑。用意したCDはすべて売り切ってしまったという。

 この日、アプガは池袋・新星堂サンシャインシティ アルパ店でもトークイベントを行なった。「2013年を振り返る」的なテーマだったが、話はいたるところで脱線し、それがいつのまにか元に戻っていく(主に、しっかり者の新井愛瞳が軌道修正をする)。そのタイミングがなんとも快い。森ティーの隠し芸「エアジェットコースター」も、ものすごく衝撃的だった。森ティー、どこへ行こうとしているのか……。

 ぼくにとって、2013年のアプガの見収めはこのトークイベントだった。この1年も数え切れないほどの感動と熱気と喜びを一方的にもらいまくった。そして2014年元日、「アプガ第二章(仮) 2014年元日決戦 ~赤坂BLITZ~」からアプガの新年が始まる。[次回2/24(月)更新予定]