『アー・ユー・パッショネイト?』ニール・ヤング
『アー・ユー・パッショネイト?』ニール・ヤング
この記事の写真をすべて見る

 1992年の秋、ボブ・ディランの30周年記念コンサートで共演して以来、ニール・ヤングはブッカーT&ザ・MGsとの関係を深めていった。翌年夏には彼らとのツアーを実現させ、オーティス・レディングの名曲≪ドック・オブ・ザ・ベイ≫も歌っている。ベースのドナルド・ダック・ダンは『シルヴァー&ゴールド』とそのあとのツアーにも参加した。そして、21世紀最初の年2001年を迎えるとニールは、ブッカー/ドナルドとスタジオに入った。スティーヴ・クロッパーは参加しなかったが、実質的にはヤング&MGsの作品を目指したわけである。ドラムスはMGsのオリジナル・メンバー、アル・ジャクソンの従兄弟スティーヴ・ポッツ。ほかにフランク・サンペドロ、ペギとアストリッドらが参加した(クレイジー・ホースがバックを務めた≪ゴー・ホーム≫も収録)。

 翌02年秋にリリースされたアルバムのタイトルは『アー・ユー・パッショネイト?』。オープニング≪ユア・マイ・ガール≫のイントロ12小節を聴いただけで、バンド全体のグルーヴ感からも、ギターのトーンからも、ニールが本気でソウル・ミュージックに取り組もうとしているのだということが伝わってくる。スロー・テンポの≪ホエン・アイ・ホールド・ユー・イン・マイ・アームズ≫は、スモーキー・ロビンソンを彷彿させたりする。マイナー・ブルースのタイトル曲は、MGsがアルバート・キングを支えたミュージシャンたちであったことも思い出させてくれる。9分超の≪シーズ・ア・ヒーラー≫はソウル・ジャムといったところか。もちろん、どの曲も、あくまでも「ニールらしく」ということであるわけだが。

 全体的なテーマは、『ハーヴェスト・ムーン』から顕著になってきた妻ペギへの愛だろう。『アー・ユー・パッショネイト?』はそのテーマとニール風ソウルという方向性で貫かれるはずだった。しかし、9.11のあとニールは、ペンタゴンに攻撃目標にしていたと推測されるUA93便の乗客たちがハイジャッカーたちに立ち向かおうとしたときのかけ声だといわれる≪レッツ・ロール≫をタイトルにした曲を書き上げ、このアルバムに収めてしまった。僕にとっては、数あるニール・ヤング作品のなかで、未だにきちんと受け止められずにいる曲の一つである。[次回2/3(月)更新予定]

[AERA最新号はこちら]